求核剤となる求核部位と脱離基となる求電子部位を併せもつイリドは、古くから有機合成反応に用いられてきた反応剤であり、様々なビルディングブロックの構築に利用されてきた。研究代表者はこれまでに、求核剤として硫黄イリドを用いたスピロシクロプロパンの開裂ー環化反応により含酸素6員環が構築できることを見出し、二環式複素環化合物クロマンの合成に成功した。この結果は、イリドによるシクロプロパンの開裂反応の初めての例である。また、これまでにシクロプロパンの開裂ー環化反応による様々な複素環の構築については数多くの報告例があるが、炭素環の構築例はほとんどなく、特に二環式炭素環の構築例は全くなかった。これらの背景のもと、本研究ではリンイリドや硫黄イリドを炭素求核剤として用いるスピロシクロプロパンの開裂ー環化反応による炭素環構築を検討し、医薬品や有機材料として利用されている二環式化合物インダン、アズレンおよびスピロシクロブタンの合成法を開発する。 今年度は、シクロブタン骨格の構築を目指し、メルドラム酸から調製したスピロシクロプロパンと電子求引性基により安定化された硫黄イリドとの反応を検討した。その結果、硫黄イリドによるスピロシクロプロパンの環拡大反応が進行し、スピロシクロブタンが収率よく得られることを見出した。この結果は、硫黄イリドによるシクロプロパンの環拡大反応の初めての例である。さらに,バルビツール酸から調製したスピロシクロプロパンを用いても、硫黄イリドによる同様の環拡大反応が進行し、対応するスピロシクロブタンが収率よく得られることが分かった。
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