研究課題/領域番号 |
21K05049
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研究機関 | 公立千歳科学技術大学 |
研究代表者 |
堀野 良和 公立千歳科学技術大学, 理工学部, 教授 (30447651)
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研究分担者 |
是永 敏伸 岩手大学, 理工学部, 教授 (70335579)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 金 / シクロプロパン化反応 / アレニリデン金中間体 / アルキン / スズ / アルケン |
研究実績の概要 |
アルキンの活性化を駆動力とする分子変換反応では,金カルベノイド中間体を経る興味深い反応(不斉シクロプロパン化反応やsp3C-H結合挿入反応)が開発され,金-炭素結合の結合様式やその電子状態に対する理解も深まってきている。一方,アレニリデン金錯体の化学的性質の解明,ならびにその合成化学的利用に関する研究は黎明期にある。そのため,アレニリデン金(I)錯体の発生法と化学的性質に関する知見は未だ十分ではない。本研究課題では,官能基許容性の高いアレニリデン金(I)中間体の新規発生法を開発し,触媒的分子変換反応の創出を目指している。本年度は,アレニリデン金(I)錯体の本質的な反応性を実験と理論計算化学の両面から明らかにすることを目指した。本年度は以下の成果を得た。 1.カチオン性金(I)触媒存在下,γ-スタニル置換プロパルギルアセテートとスチレンとの反応を行うとビニリデンシクロプロパン誘導体がジアステレオマーの混合物として得られた。リン配位子と対アニオンの検討を行ったが,ジアステレオ選択性の向上は見られなかった。 2.ビニリデンシクロプロパン生成物の立体化学の決定を行ったところ,トランス体が主生成物であることがわかった。理論計算によるNMRケミカルシフト値の結果もトランス体が主生成物であることを支持した。 3.様々なアルケンを検討した結果,スチレン誘導体でのみシクロプロパン化反応が進行することがわかった。また,基質一般性の検討を行ったところ,酸素や窒素を含む官能基を有する場合には反応がほとんど進行しなかった。この狭い基質一般性はこれまで知られている金カルベノイド中間体の反応性とは異なるため,今後,反応機構を解明する上で重要な知見となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請当初予期していなかった研究代表者の異動により研究室の立ち上げに時間を要してしまい,研究開始が遅れたため。また,申請研究計画の研究体制で実験を実施することができなかったため。 研究計画1年目は,1)基質一般性およびアルケンの検討,2)ジアステレオ選択性向上の検討,3)反応機構に関する実験検討と理論計算化学による反応機構の解明,4)金触媒以外の遷移金属錯体のスクリーニングを計画していた。 研究計画1)に関しては概ね検討が終了した。研究計画2)は現在も検討中である。研究計画3)および4)については令和4年度に実施する。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度に実施できなかった反応機構に関する検討と理論計算化学による反応機構の解明,および金触媒以外の遷移金属錯体のスクリーニングを行う。これらを基に,本研究で提唱しているアレニリデン金(I)錯体が,金(I)カルベノイドとして機能するのか,それともそのカチオン等価体として振る舞うのかを明らかにする。その後,アレニリデン金中間体の反応性について種々検討を行い,他のアレニリデン金属錯体との化学的性質の違いを明確にする。例えば,1)アルコールや炭素求核剤による分子間および分子内反応,2)エン反応,3)シランやボランへの挿入反応等を検討する。また,開発できた触媒反応については,反応機構の解明を理論計算化学で行う。これらの研究を通して,アレニリデン金(I)中間体の新たな触媒機能を見出すことを目標にしている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの影響により学会がZoom開催となり旅費が発生しなかったことと,研究代表者の所属機関の異動により実験計画に遅れが生じたため助成金を繰り越した。令和3年度に達成できなかった研究計画を令和4年度にあらためて行う費用に充てる。
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