研究実績の概要 |
従来の低原子価コバルト触媒システムの脆弱性を克服するため、コバルト触媒と光酸化還元触媒を組み合わせた協奏的触媒システムを活用する環化異性化反応の開発を中心に研究を遂行した。最終年度にあたる本年度は、新たに見出した不活性なsp3炭素-水素結合の活性化を伴う新奇環化異性化反応について、反応機構の解明および高レベルの不斉制御の達成を目指し、研究を行った。本反応は従来の反応と異なり、活性金属中心から遠隔位のsp3炭素-水素結合を選択的に切断し、結合を組み替えることでシンプルな鎖状ジイン誘導体から複雑な軸不斉アリールアルケンを一挙に構築できるため興味深い。理論計算および実験化学的アプローチにより、σ結合メタセシスによるsp3炭素-水素結合の活性化が比較的容易に進行することや1,5-水素移動が立体特異的に進行し、中心性不斉から軸不斉へと不斉転写が起こることを突き止めた。また、キラルなビアリールホスホロアミダイト配位子を用いることで、最大87:13のエナンチオマー比で軸不斉アリールアルケンを合成することに成功した。本研究を通して見出された種々の反応は、同族のロジウム触媒やイリジウム触媒では低収率にとどまるか、あるいは全く反応が進行せず、2価コバルトと金属還元剤を用いる従来法でも生成物は極めて低収率でしか得られないことから、本協働触媒システムが1,6-ジイン類の環化付加反応に極めて有効であることが明らかとなった。一方、コバルトではないが、遷移金属触媒を用いる炭素-炭素二重結合を選択的に切断する新規環化異性化反応や炭素-水素結合活性化を伴うヘテロ環の構築反応も見出すことができており、原子効率の極めて高いσ結合の活性化を伴う結合組み換え型反応を大きく進展させることができたと考えている。
|