本研究は、ファインケミカル合成の鍵技術である均一系触媒反応の元素戦略の一環として、元素減量を実現する高い触媒効率で進行する新反応を開発し、アミドやイミドから新たな骨格を持つ含窒素π共役系化合物、含窒素複素環の合成とその機能解明を達成することを目的とした。研究手法として、合成化学実験を用いた反応開発、計算科学を用いた反応機構の解明と物性予測の双方を相補的に用いた。2021、2022年度においては、これまでに得られていた高活性イリジウム触媒とヒドロシランを用いるアミドからエナミン合成の知見を、複素環合成とカルボニル基還元反応に関する実験化学で成果を得ている。これを踏まえて、計算科学において、触媒として、9族金属であるコバルト、ロジウム、イリジウムの3つの金属に配位子としてのカルボニル、イソシアニド、ホスフィンを持つ錯体を、基質としてアルケン、カルボニル化合物を用いた場合の、ヒドロシランを用いる不飽和化合物への付加反応について、遷移金属触媒反応全体を俯瞰的に理解することをめざした。成果として、1)コバルトカルボニル触媒を用いるヒドロシリル化反応においては、提唱されている反応機構が実験事実と合わない点があることが指摘されていたが、DFT計算を用いて反応経路を精査することにより、合理的な触媒サイクルを明らかにした。2)コバルトカルボニル触媒を用いるビニルスルフィドのヒドロシリル化反応において、実験化学で特異的な位置選択性を見出しているが、それを説明する反応機構を、計算科学を用いて明らかにした。3)ロジウムまたはイリジウムホスフィン触媒を用いるカルボニル化合物のヒドロシリル化では、近接する2つのケイ素‐水素結合が特異的な加速効果を与えることを見出しているが、DFT計算により、従来のヒドロシリル化機構研究にない、新しい反応機構、ジシラメタラサイクル機構が存在することを明らかにした。
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