研究課題/領域番号 |
21K05063
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研究機関 | 公益財団法人微生物化学研究会 |
研究代表者 |
齊藤 誠 公益財団法人微生物化学研究会, 微生物化学研究所, 研究員 (10772866)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 触媒的不斉合成 / アルキルニトリル / 可視光酸化還元触媒 |
研究実績の概要 |
申請者は、自らが開発したピンサー型キラルニッケル錯体と共存ブレンステッド塩基によるアルキルニトリル類の活性化、続く生じたアニオン中間体の可視光酸化還元触媒によるニトリルαラジカルの発生を軸とした新規不斉炭素-炭素結合形成反応の開発を軸に研究を行ってきた。ニトリルαアニオン中間体からの一電子酸化のステップが困難であるためか、目的の反応を進行させるには至っていないが、その研究途上、本触媒系によってアルキルニトリルがビニルケトンに対してエナンチオ選択的に付加することを見出した。コントロール実験によって本反応は可視光酸化還元触媒非関与で進行することが明らかになったものの、ピンサー型ニッケル錯体の化学に関する重大な知見を与えるものと考えている。現在エナンチオ選択性の向上に向けた検討を行っている。 一方、アセトニトリルなどのアルキルニトリルに代わり、より安定なαアニオンを生じるアリルシアニドを基質とした炭素-炭素結合形成反応への展開を試みた結果、カルボニル系の求電子剤との反応において興味深い知見が得られた。すなわち、アルデヒドへの触媒的不斉付加反応について申請者の開発したニッケル錯体を作用させたところ、完全なα選択性で反応が進行し、非常に高いエナンチオ選択性で目的物が得られることが明らかになった。現在はジアステレオ選択性の向上を目指した検討を行っている。一方でCF3ケトンについても同様の検討を行ったところ、さらに興味深いことに、反応条件の微細な差異によって反応の位置選択性が制御可能であることが明らかになりつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概要に述べたように、当初の目論見であった、ピンサー型ニッケル錯体と可視光酸化還元触媒によるdouble activationを軸とした分子変換については期待通りの成果には繋がっていないものの、 1)アルキルニトリルのビニルケトンへの触媒的不斉付加反応 2)アリルシアニドのアルデヒドへの位置選択的不斉付加反応 3)アリルシアニドのCF3ケトンへの位置選択的不斉付加反応 の3反応への展開を行うことに成功している。 1)については、アルキルニトリルを用いた触媒的不斉1,4-付加反応はこれまで例が少なく、高エナンチオ選択性を与えるものは皆無であるため、その研究成果の与える意義は大きいものと考えている。 2)は、申請者の所属する研究室において銅触媒を用いた先行的な研究が行われてきたが、その成果と今回のものは、反応の位置選択性において明確な差異がみられており、申請者の開発した触媒を用いることで、既存の手法では合成できなかった生成物が選択的に得られる。ひいては本触媒が同一の基質の組み合わせからの発散的な合成へと繋がると考えている。 3)については、同一の基質・触媒系を用いながら、溶媒・温度のみのチューニングによって生成物の位置選択性を制御できることが明らかになりつつある。この現象そのものの興味深さに加え、先と同様の発散的合成へと展開しうる合成的有用性、さらには生成物である含フッ素キラル化合物の応用性を鑑みると、本反応の重要性は非常に高いと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
可視光酸化還元触媒(PC)とピンサー型ニッケル錯体を駆使した有機合成に関しては、これまで掲げてきたニトリルαアニオンからのPCによる酸化から軸を移し、PCによる求電子剤前駆体の生成/ニッケル錯体による求核剤前駆体の生成を同時に実現する反応の開発を行っていこうと考えている。具体的な例としてはテトラヒドロイソキノリンを求電子剤前駆体に用いたMannich型反応などを想定している。また、本来の研究課題への取り組み途上に発見した反応に関しても継続的に研究を行っていく。特に2)3)に関しては、発散的合成への展開可能性(先述)などの面から研究を推進する意義が大きいため、継続的に選択性を高めるべく反応条件検討を継続していく。条件を確立した際には基質適用範囲の検討、生成物の有用有機化合物への変換などを行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初想定していた、最も高価である可視光酸化還元触媒の消費が少なく、光反応に関わる諸々の装置の消耗も少なかったため以上の使用額となった。次年度において、光反応の開発に注力することに加え、触媒の構造修飾のため高価な原料の購入に利用していく予定である。
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