研究課題/領域番号 |
21K05064
|
研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
是永 敏伸 岩手大学, 理工学部, 教授 (70335579)
|
研究分担者 |
岡崎 雅明 弘前大学, 理工学研究科, 教授 (20292203)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | キラルルイス塩基触媒 / 不斉水素化 / ルイス塩基性 / FLP触媒 / メタルフリー |
研究実績の概要 |
インタープレイ型触媒開発は、新触媒を効率的に開発するための強力な手法となり得るが、まだ黎明期であり、実験化学者が容易に利用できる手法ではない。そこで研究代表者は、将来におけるインタープレイ法利用の一般化を目指し、この手法を用いた計算化学主導型の触媒開発を実施する。対象とする不斉FLP触媒はメタルフリーな水素化触媒として注目されているが、単純ケトンを用いた不斉水素化の難易度は非常に高い。そこで、本研究では単純ケトンの不斉水素化で95% ee越えを達成できる新規不斉FLP触媒を世界に先駆けて開発することを目的とする。 まず量子化学計算機を用いて、キラルルイス塩基の初期設計を行う。設計したキラルルイス塩基とルイス酸であるB(C6F5)3とを組み合わせたFLP触媒を想定し、アセトフェノンの不斉水素化の遷移状態計算を実施し、不斉収率を予測する。この際、キラルルイス塩基の骨格構造やルイス塩基として働くヘテロ原子を変え、高い性能を示すと考えられるキラルルイス塩基構造を計算的に追い求める。計算的に高評価となった複数のキラルルイス塩基を実際に合成し(=第1世代キラルルイス塩基)、B(C6F5)3等のアキラルルイス酸と組み合わせ、FLP触媒としてケトンの不斉水素化に用い95% eeを超える不斉収率を目指す。第1世代キラルルイス塩基でこの目標を達成できない場合には、ここで得られた実験データを基に、計算による更なる反応解析及び触媒設計を実施し第2世代キラルルイス塩基を開発する。この段階でも目標値を達成できない場合には、さらに計算⇔実験のインタープレイを繰り返し、研究期間内に目標値を満たす新規不斉FLP触媒を開発する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第1世代キラルルイス塩基 計算機による設計:第1世代キラルルイス塩基の設計を行った。想定した分子を用いてケトンの不斉水素化の遷移状態を計算したところ、触媒上の置換基(R)に嵩高位置換気を入れた場合には選択性については十分発現されることが示唆された。 触媒の合成と水素化反応への適用: 分子設計に従い、R=H,Ph,MeO3C6H2を有する三種類のキラルルイス塩基触媒の合成を行い、それぞれエナンチオマーの合成に成功した。次にアセトフェノンを用いて不斉水素化反応を行った。合成したキラルルイス塩基とB(C6F5)3をそれぞれ10%用いアセトフェノンの水素化を行った所、R=Hの触媒ではラセミ体の生成物しか得られなかった。そこでR=Phの触媒を用いて同様の反応を行った所、10%eeという低いエナンチオ選択性で反応生成物が得られた。さらに嵩高いR=MeO3C6H2を有する触媒を用いた際には、20%eeと僅かな工場は見られたが、依然として選択性は低いままであった。これらの結果から、本反応でエナンチオ選択性が低いのは、遷移状態による制御が甘いというよりは、触媒のルイス塩基性が低すぎて、触媒と反応基質(のプロトン体)の相互作用が弱く、触媒による不斉環境の制御が出来ていないためであると考えられた。そこで次年度は、第1世代キラルルイス塩基よりもルイス塩基性の強い触媒の設計(第2世代キラルルイス塩基)を行う予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況を加味し、第2世代キラルルイス塩基の設計、開発、触媒利用を行っていく。第2世代キラルルイス塩基では第1世代よりも塩基性を高くするが、不斉環境のデザインも大幅に変更する予定である。まずは遷移状態計算による不斉導入能の見積もりを行い、その後、合成を実施していく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
第二世代触媒までの合成を想定していたが、第一世代触媒の合成に手間取り、第二世代触媒の合成には至らなかった。また、コロナの影響により、いくつかの学会がオンラインとなり、予定していた旅費の算出がなくなった。さらに、R3年度の本学の予算執行は、例年よりも一ヶ月短い2月末までであり、執行期間が一ヶ月少なかったことも影響した。 本年は第二世代触媒の合成と対面型学会への参加により、本年度未使用分を使用する予定である。
|