本研究は、ホスホニウムイリドの触媒能に関する研究の一環として、可視光レドックス触媒としての機能開拓を目的とするものである。昨年度までの研究により、ホスホニウムイリドの光化学特性を調査した結果、独自に開発したホスホニウムイリドが還元的過程を担う可視光レドックス触媒として機能することを実証した。すなわち、(1)励起状態の酸化電位は-2.38 V vs. SCEであり、極めて強い還元力を有すること、(2)励起寿命は約3ナノ秒であり、一重項励起状態から電子移動反応が進行することを明らかにした。また、合成化学的応用として、トリフルオロメチル化剤やイミド化剤を用いるアルケンや芳香族化合物のC-H官能基化反応を報告した。 本年度は、昨年度に引き続き、電子アクセプターのスクリーニングを行った。その結果、励起状態のホスホニウムイリドからハロゲン化アリールへの光誘起電子移動反応が進行し、対応するアリールラジカルが発生することを見出した。p-ヨードアニソールとピナコールジボランをDMSO中、10 mol%のホスホニウムイリド触媒存在下およびフッ化セシウム存在下、可視光照射下に反応させると、対応する芳香族ボロン酸エステルが中程度の収率で得られた。また、亜リン酸トリアルキルとの反応についても検討し、対応する芳香族ホスホン酸エステルが得られることを見出した。ハロゲン化アリールからの還元的なアリールラジカルの発生には、強い還元力を有する可視光レドックス触媒が必要とされており、本研究成果は、ホスホニウムイリド固有の反応性をうまく利用できた成果といえる。
|