研究課題/領域番号 |
21K05069
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研究機関 | 兵庫医科大学 |
研究代表者 |
山岡 庸介 兵庫医科大学, 薬学部, 講師 (60624723)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | イノラート / シクロブテン / シクロブタン / 天然物合成 / フロー合成 |
研究実績の概要 |
効率的な合成素子の開発は単純に新規反応の開発に貢献するだけでなく、効率的な医薬品や生理活性物質の合成への応用を可能とする。我々は、これまで煩雑な手法を用いないと合成できなかったイノラートを簡便かつ効率的に合成する手法を見出している。一般的によく知られているエノラートよりもより酸化度の高い合成素子であるイノラートをもちいることにより、より高度に酸化された化合物の効率的な合成を目指している。その結果、(1)イノラートとα,β-不飽和カルボニルとの(2+2)環化付加により、多置換シクロブテンを良好な収率で合成することができた。本反応の基質適用拡大も行なった。(2)また、本反応によるシクロブテン誘導体の量的供給を目指し、フロー合成への応用も検討している。種々の条件検討をおこなうことにより、バッチ法と比較し良好な結果も得られており、さらなる効率化を目指している。(3)本反応の有用性を確認するため、有用天然物や医薬品合成への応用も行っている。シクロブタン含有抗腫瘍活性天然物providencinの全合成とその活性相関研究も推進している。Providencinはシクロブタン環を有する高度に酸化された天然物であり、また、様々な生理活性を有しているがこれまでに合成された報告はない。シクロブタン環を有するフラグメントをすでに合成することに成功している。今後はもう一方のフラグメントとのカップリング反応の検討を行なった後全合成を達成する予定である。その後、様々な誘導体を合成し構造活性相関研究も推進していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)素反応としてのイノラートを用いた(2+2)環化付加においては、大幅な基質適用範囲の拡大に成功した。すなわち、イノラートとしては芳香族、脂肪族イノラートいずれも使用可能であり、またα,β不飽和カルボニル化合物においても鎖状アクリレート以外にも環状ラクトンやエノンでも良好な収率で進行することも見出した。得られたシクロブテンのさらなる誘導化体合成も達成することが出来ている。(2)一方、バッチ反応では操作の煩雑さなどの点から生成物の大量供給は困難であった。そこで本反応によるシクロブテンもしくはシクロブタンの大量供給をを目指し、フロー合成も行なってきた。前年度からの条件最適化検討の結果大幅な収率、反応効率の改善を達成することもでき、現在基質適用範囲の拡大を検討している。不安定アニオンである合成素子であるイノラートを用いてもフロー法で反応させることにより、シクロブタン誘導体の効率的な供給を達成できる見通しを立てることが出来た。また、低収率ながらもフロー法ならではの新しい反応も見つかっている。(1)(2)に関しては現在論文準備中である。(3)Providencinの全合成研究においても、2つのフラグメントのうち、シクロブタン環を含む一方のフラグメントは少量ながら望みの立体化学を有する中間体として合成することが出来た。今後フロー合成をもとに先端化合物の量的供給とともに、もう一方のフラグメントの立体選択的な合成を行う予定である。これらのフラグメントに対しカップリング反応を行うことで、Providencinの全合成を目指していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、当初目的としていたイノラートを用いた(2+2)環化付加によるシクロブタン、シクロブテン合成は概ね達成することが出来た。今後の研究予定としては、(1)フロー法でのシクロブテン合成のさらなる効率化を目指す。一方本反応においては大きな問題点が残されている。すなわち自然発火性物質であるtert-ブチルリチウムを使用しなければならない点である。今後は代替塩基の探索を予定している。例えばより温和なsec-ブチルリチウムやとくにn-ブチルリチウムへの変更を出来れば、大きなインパクトとともに実用可能な反応になると考えている。フロー法の特性を生かした上記の温和な試薬を用いたフローでのミキサーの変更、反応の流速ならびに滞留時間などの条件検討を行なうことで解決していきたい。 また、Providencinの全合成ならびに誘導体の合成を検討する。上記のフロー法によるシクロブタン含有フラグメントの量的供給を検討していく予定である。さらに他方のフラグメントの合成ならびにそれぞれのフラグメントとのカップリング反応と種々の酸化度の調整をおこなうことで天然物の全合成を目指す。これらが達成した暁には、構造活性相関を視野に入れた2つのフラグメントの誘導体合成をおこない、種々のprovidencin誘導体の合成も視野に入れている。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度に京都大学から兵庫医科大学に異動になった。その際に、異動準備のため研究を一時停止していたことと、新しい研究室でのスタートアップ資金のためです。また、今後の使用計画に関しては、必要な試薬・消耗品の新規購入に当てる予定である。
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