研究課題/領域番号 |
21K05070
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
星本 陽一 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (30710074)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | カルベン / 異種二核錯体 / ルイス酸 / ニッケル |
研究実績の概要 |
本研究は、多官能化カルベン配位子のダイナミックな構造変化を活かし、二つの金属中心の離隔および接近を制御可能な異種二核金属カルベン錯体の創成に取り組んできた。これにより、本研究は、剛直な構造の多官能化カルベンを用いて、二つの金属を離隔させるのみに留まってきた従来研究と、一線を画する錯体創成手法の確立を目指す。最終的には、本研究により、異種二核金属カルベン錯体の革新的な設計戦略および利用法を実証し、有機合成化学・有機金属化学の新展開を開拓する。 令和3年度においては、主にNi-PoxIm錯体(PoxIm = N-phosphine oxide-substituted imidazolylidenes)とルイス酸 ER3 (E = B, Al)の反応を検討した。E = Alの場合、PoxImにおけるカルベン上にNi、ホスフィノイル基上にAlが結合した新規異種Ni/Al錯体が収率よく生成した。この錯体の構造を種々の分光学的手法および単結晶X線構造解析により明らかとした。 また、PoxIm-Ni錯体がCO吸着剤として作用することも見出した。これは、ゼロ価の金属を用いた室温、可逆的な化学吸着の最初の例であり、高酸化状態の金属および、圧力変動と温度変動の両方または片方が必要だった従来系とは一線を画する。当該の反応系はイオン液体を用いることで再利用可能である。これらを総合して、サステイナブルかつ効率的なCO吸脱着系の世界初の基礎概念を実証した。この研究過程において、PoxImとその誘導体(SPoxIm = N-phosphine oxide-substituted imidazolinylidene)の反応性が大きく違うことが明らかとなり、単結合か二重結合か、の僅かな骨格の違いが大きな差を生むことを理論化学計算により明らかとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
目的とする異種二核錯体として、Ni/AlおよびNi/B錯体が生成することを確認した。また、それらの構造を分光学および単結晶X線構造解析により確定し、前例のない学術的意義の高い結合様式が含まれていることを明らかとした。 それらの反応性を調査する過程で、Niの形式的な酸化を含むジアリールNi錯体の形成を確認した。反応機構は不明であるが、既知の知見では説明出来ない新規性の高い現象が起きていると推察している。 さらに、PoxIm-Ni錯体がCO吸着剤として作用することも見出した。これは、ゼロ価の金属を用いた室温、可逆的な化学吸着の最初の例である。反応系はイオン液体を用いることで再利用可能となり、サステイナブルかつ効率的なCO吸脱着系の世界初の基礎概念となりうる。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度において合成した新規Ni/Al,およびNi/B錯体の反応性を解明する。既に、Ni/Al錯体の加熱により、ジアリールNi錯体が形成することを見出しているが、反応機構が未解明である。Ni(0)によるビアリールの開裂反応が含まれている可能性も考えられるので、慎重に解明していく。 またNi/B錯体の構造的特徴を解明して、新たなZ型配位子の設計理論を開拓する。
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次年度使用額が生じた理由 |
年次研究計画書における本年度の研究実施項目であるPoxIm金属錯体と種々ルイス酸との反応による異種二核金属錯体の創成を推進していく過程において、Ni錯体とホウ素化合物との反応生成物の構造解析における単結晶の調整と理論化学計算における計算項目の複雑化・計算時間の長期化が発生し、当初の研究計画から2-3ヶ月遅れが生じた。 それにともない、当該研究項目の実施に必要な高純度試薬購入費用および消耗品購入経費を翌年度へ繰り越すこととしたい。
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