研究実績の概要 |
すでに1,1’-ビナフチル基と2,4,6-トリ-t-ブチルフェニル基(Mes*基)を有するジホスフェン-金(I)錯体の合成に成功するとともに、この錯体がアリールブチニルエーテルの分子内ヒドロアリール化反応に対する触媒として利用可能であることを明らかにしている。本年度は、高活性なジホスフェン配位子の開発を目指して、Mes*基のかわりに電子的・立体的に異なるテルアリール基を有するビナフチルジホスフェン1およびその金錯体の合成を検討した。 ジホスフェン1はこれまでと同様の手法により合成した。ジホスフェン1に対して1当量のAuCl(tht)を作用させたところ、対応する金(I)錯体2が得られた。ESI-MSスペクトルの結果から、ジホスフェンと金の1:1錯体が形成していることが分かった。錯体2の31P NMRスペクトルでは、102.6, 5.1 ppmにダブレットシグナル(J = 356 Hz)を与え、η2配位していることが示唆された。これは、η1配位した既知の金(I)錯体 (405.9, 315.7 ppm; J = 535 Hz)とは対照的な結果である。次に、得られた金(I)錯体2を用いて、「1,6-エンインの環化異性化反応」、「アルキンを有するジアリールスルフィドの分子内ヒドロアリール化反応」、「アルキニルアルケノンとジフェニルイソベンゾフランの環化付加反応」の3種類の触媒反応へと適用した。いずれも目的とする反応が進行し、ジホスフェン錯体に適用可能な基質の拡大に成功した。また、光学活性なジホスフェン錯体を用いたところ、11%eeで環化付加反応が進行することが分かった。
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