研究課題/領域番号 |
21K05074
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
鈴木 教之 上智大学, 理工学部, 教授 (90241231)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 温度応答性ポリマー / パラジウム触媒 / ルテニウム触媒 / オレフィンメタセシス / 水中有機反応 |
研究実績の概要 |
配位子機能を有する新規RAFT開始剤の合成:ジアゾ基を末端に有するキサントゲン酸エステルと末端アルキンをもつピリジン環とのHuisgen環化反応により簡便に合成できる方法を開発した。この開始剤を用いてRAFT重合を行うことにより、温度応答性セグメントであるポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)部位と水溶性セグメントであるポリ(p-スチレンスルホン酸ナトリウム)のブロックコポリマーの末端にN,N-二座配位子を導入できた。この二座配位子でパラジウム錯体を形成し、触媒機能を持つ温度応答性ポリマーミセルの合成を達成した。 水中有機反応の実施:得られたポリマーを水に溶解し、非水溶性のヨードベンゼン誘導体と種々アルケン類との溝呂木-Heck反応を試みた。アクリル酸誘導体について反応は良好に進行したが、スチレン系のアルケンについては中程度の収率にとどまった。フェナントロリン配位子骨格を持つ高活性錯体をもつポリマーを用いた場合、触媒回転数を大幅に向上することが出来たが、スチレン類の反応では同等の高活性が見られなかった。配位子の立体的な要因によるのではないかと推察される。 触媒水溶液の再利用:反応後のポリマー水溶液を触媒反応に再利用したところ、8回程度まで再利用が可能であり、1回の触媒回転数が1万を超えたので総回転数は8万に達した。水溶液中でPd金属が微粒子化しているか、透過型電子顕微鏡(STEM)、イオンプラズマ分析(ICP)を用いて観察したが、水溶液中の金属が検出されず今後の課題として残った。 さらに、他の触媒反応への展開として、Pd触媒を用いてハロゲン化アリールをホウ素化する石山-宮浦反応について検討した。親水性部位としてポリエチレングリコール鎖をもつ温度応答性ポリマーを用いたところ、ポリマーを用いない水のみの系と比較して有意に高い収率でホウ素化体生成物が得られることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
合成を計画していた配位子部位を持つ開始剤の1つについて合成を達成した。さらに高活性の配位子をもつ開始剤の合成も達成し、再現性の高い反応条件の検討が今後の課題である。温度応答性ポリマーの合成については、種々アニオン性ポリマー、カチオン性ポリマーに加えて今後ノニオン性鎖をもつ温度応答性ポリマーを合成し、これを用いて錯体の形成、触媒反応への検討を実施していく。 触媒としての機能を見ると、その活性と、再利用回数を向上することが出来た。触媒ポリマー水溶液の再利用回数を8回程度まで伸ばすことができたので、これを10回以上まで向上したい。反応溶液からの生成物の高効率な抽出操作においては、スケールを大きくした実験において、抽出溶媒を用いない系を実現できることが確認できた。 また、触媒反応の機構については未解決の課題が残る。一般にパラジウムは均一系錯体触媒として機能することが知られるが、パラジウムナノ微粒子(PdNPs)などの不均一系としても高い触媒活性を示す。本触媒系が、錯体形成した後均一系で進行しているのか、あるいは系中で不均一系のパラジウムナノ微粒子(PdNPs)になって触媒として機能しているのか、またナノ微粒子から均一系になっているのか明らかにすべく、引き続きADF-STEM観察により、反応後の溶液中に3-4 nm程度のパラジウムナノ微粒子が存在しするか検討する。これが明らかになることにより、触媒活性をより高くすることにつながるであろう。
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今後の研究の推進方策 |
まず、現在合成に成功している錯体固定化温度応答性ポリマーを用いて、種々の反応条件を最適化し、より高効率な触媒反応系の実現を目指す。とくに石山-宮浦反応の検討では、抽出操作の効率を高めるために温度応答性ポリマーのLCST発現を先鋭化できないか検討する。ブロックコポリマーの鎖長を変更し反応・抽出への影響を検討する。 さらに、高活性型錯体触媒を固定化した温度応答性ポリマーが合成できたので、高効率な触媒ポリマーの利用において実機に近いスケールでの反応条件を検討する。溝呂木-Heck反応においては、副生成物として塩が生成し水系に蓄積する。繰り返し反応においてはこれが相分離の妨げとなることがあるため塩溶液の分離プロセスを検討する。これまでルテニウム錯体を用いたアルケンのメタセシス反応に成功しているので、反応最適条件を用いて錯体触媒の開始末端への固定化を目指す。これにより、より広範囲な触媒反応への温度応答性ポリマー適用の展開を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度において購入予定であった試薬の一部について、合成計画が2023年度に移行したため一部試薬の購入を2023年へ変更した。2023年度においては計画通り予算を執行する予定である。
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