研究課題/領域番号 |
21K05076
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
遠藤 恆平 東京理科大学, 理学部第一部化学科, 准教授 (70454064)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 有機合成化学 / 有機金属化学 / 超分子化学 / 分子触媒化学 |
研究実績の概要 |
(1)孤立空間の新規創製法として研究提案に従い実験を進めた結果、作成したサンプルが目的の機能を発現することを確認した。具体的には無機物表面へのボウル型分子結合により、ボウル型分子内部にヨウ素分子を取り込み保持することを明らかにした。ヨウ素分子の取り込みが起きていることをTXRF測定により明らかとし、無機物単体ではヨウ素の取り込みは起きなかった。また、減圧下においても取り込んだヨウ素分子が保持されていることがわかった。現在は標的分子の機能が特有のものであるか確認するため合成を続けている。さらに、新規骨格であるボウル型分子の設計と合成に取り組み、目的物の合成に成功したことから、現在、カプセル分子への変換を試みている。また同様の手法として金属クラスターへの配位による孤立空間の作成を試みており、配位子のプロトタイプを合成した。現在は実際に配位が可能かを調べている。 (2)反応場の適切な調製を目指し、過去に進めてきた多核錯体による触媒反応に対照的な二核錯体の精密合成を試みている。多核錯体は周囲を有機骨格で覆われており、分子状フラスコ内における金属原子同士の相互作用が見込まれる。多核錯体では正確な構造が不明であるが、新しい触媒機能の発現を本研究期間中に見出した。その触媒機能と、精密に合成した二核錯体における金属原子1:1の相互作用の違いについても研究を進める。 (3)本研究過程において新たに効率的な金属ヒドリド中間体の発生法を見出した。これまでは水素ガスなどを用いる金属ヒドリド発生法が一般的であったが様々な官能基を還元するため反応制御が難しい、化学選択性に乏しいという問題もあった。今回、見出した手法では反応機構の特徴から化学選択的なヒドリド置換反応が可能であることがわかった。今回の結果を本研究における発見をもとにした研究開発も今後進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究室体制で予期せぬことが発生し論文投稿が遅れている状況。有機骨格構築法に関して1つ目の論文投稿直前で、実験項などの詳細の最終確認中である。また、2021年度初頭に投稿予定であった論文についてはデータ収集に想定以上の遅れが生じているが2022年度中にまとめるよう実験を進めている。 (1)無機物表面への有機骨格の結合:目的化合物の合成などは予定通りに進行している。当初目標通りの結果が得られているが、無機物表面に対する結合様式に関して目的とは真逆の形式としたとき、どのような機能が発現するかを確認する必要がある。そのために必要となる化合物の合成に手間取っている。金属クラスターへの配位と同時並行して合成検討を予定している。また、ボウル型分子の新規骨格開発に成功しているため、目的とするカプセル化など可能な官能基の導入を試みる。 (2)多核錯体に対して、二核錯体を精密に合成する分子設計を進め、現在、その合成完了の直前まで進んでいる。残りの合成過程については既知の化合物から類推すると問題なく達成可能と考えている。この二核錯体の精密合成と、これまでに多核錯体触媒で進めてきた反応や、二核錯体ならではの反応への触媒としての適用が今後必要になる。 (3)有機骨格で包摂した複数の金属原子同士の作用について解明を進めるため、新規反応ターゲットを模索していたが、2021年度中に単核錯体とは明確に異なる触媒活性が得られるケースを見出した。多核錯体の構造が曖昧であるということに加えて、空気中における安定性などにも懸念が残るため、どのような反応に触媒として利用可能か見定めることが難しかった。新しい反応ターゲットの発見により研究開発を進める足場が得られた。また、これまで取り組んできている反応開発については研究室体制に少し難点があり進捗が遅れているため、改めて体制を整え今年度中にめどを付ける予定である。
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今後の研究の推進方策 |
遅れている論文投稿を進める必要がある。1つは投稿直前、もう1つは今年度中頃の投稿を想定している。また、昨年度投稿予定であった論文のデータ収集を急ぐ。 (1)無機物表面と有機物との結合を利用した孤立空間の創製について、対照実験による確認が必要であることから新規化合物の合成を試みる。金属クラスターへの配位方式と同時並行しているため若干、進捗が遅れるリスクはある。また新規なボウル型分子については「平面骨格」に対して柱が突き刺さったような構造をとっており、これまでのボウル型分子では例が少ない「底部が塞がった状態」となっている。過去の類例としては、フラーレンの部分構造であるスマネン誘導体がボウル型分子の底部が塞がった構造をしている。スマネンは湾曲しているが今回のターゲット分子は完全平面である。スマネンなどは合成法に難点があることから、本研究で見出した骨格を活かした分子設計につなげたい。新たな利用法を考案するためにも、まずはボウル型分子として精密に合成し論文投稿に向かう予定である。 (2)有機分子により保護された二核錯体の精密合成では引き続き基本分子の合成が必要になるが、あと2ステップで合成可能であるため問題はないと考えている。これまでの多核錯体触媒ではイメージが困難であった反応などへの適用を想定している。合成完了後、様々な反応開発に用いる予定である。 (3)有機分子により保護された孤立空間における複数の金属原子の作用については、新たな反応ターゲットが見つかっているため、反応開発を進めて論文投稿に向かいたい。現時点では過去の単核錯体では見られない触媒としての性質が発現しているが、それが実際に多核錯体である必要性があるかなどの情報は得られていない。今後、精査していく必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた研究体制が2021年度は整わなかったことから一部、消耗品購入などを先送りすることとした。2022年度に消耗品購入に当てて遅れを取り戻す予定である。
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