研究実績の概要 |
本研究では、「第一遷移金属錯体の弱い配位能による配位子の脱着」を積極的に利用した新たな戦略に基づき、中酸化状態の第一遷移金属錯体による特異な高効率CO2還元光触媒系を構築することを目的としている。今年度は、主に次の3項目について検討を行い重要な知見を得ることができた。 1)昨年度見出した電子求引性置換基を有するbpy (2,2’-ビピリジン)系の配位子(L)と、Feイオンとの混合触媒において、Lとして必要な要素のさらなる知見を得た。すなわち、bpy系配位子に、金属配位に対する適度な抑制効果を及ぼす6,6’-ジメチル基を導入しなくてもCO2還元混合触媒として動作することがわかった。これは、これまでLとして用いられてきたphen (1,10-フェナントロリン)系配位子とは異なり、bpy系配位子では、2つのピリジン環間の結合軸回転により金属イオンへのキレート配位がphen系に比べ弱いためと推測された。 2)混合触媒の反応性に対する保護剤(P)の効果を調べるため、反応系中に共存させるトリエタノールアミン(TEOA)濃度を変化させ光触媒反応を評価した。この結果、TEOA濃度の減少に伴いCO2還元効率と選択性が向上した。一方、Feイオンは等量程度のTEOAにより錯体形成を進行した。TEOAは有機溶媒中CO2雰囲気下においてプロトン供与体となることから、Feイオンの保護のみならず混合触媒へのプロトン供給源として働いていることが強く示唆された。Feイオンとの配位能を弱めたN-メチルジエタノールアミン(DEOA)をPとした場合も同様であったが、CO2還元の効率は低下した。 3)Feイオン以外の第一遷移金属イオン(Cr, Mn, Co, Ni, Cu)との混合触媒構築を検討した。このうち、Coイオンとの混合触媒においてFeイオンと同様の原理によるCO2還元反応の進行が確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、保護剤Pの最適化を行うとともに、配位子Lの検証実験を行う。具体的には、保護剤Pとして、プロトン供与部位を有する多座アルコールアミンや、アミン部位を有さない多座アルコール配位子、ポリフェノール配位子を用いること、およびプロトン源の積極的な添加によりCO2還元反応の機構に関する知見を得るとともに反応の高効率化を目指す。また、配位子Lとして、単座ピリジンを活用した反応機構の検証を行う。さらに、金属種Mについて反応が進行しなかったCr, Mn, Ni, Cuに関しそれらの酸化還元電位を調べ、反応が進行するFeおよびCoとの差異を明確化する。
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