研究実績の概要 |
本課題では、過去に見出した二置換芳香族アミン(o-フェニレンジアミン)類の光化学反応による犠牲還元剤および塩基フリーなCO2固定化に関する知見(Sci. Rep. 2018, 8, 14623. )に基づいて、合成化学的により有用性高い一置換芳香族アミン(アニリン)の同様の光反応性について検証・開発することを目的とした。アニリンを原料に反応性検証を種々行った結果、アミノ基(アミニル基)隣接C―H 部位で選択的にCO2との反応が進行し2,3―ジアミノ安息香酸を与えるフェニレンジアミンの系とは対照的に、当初想定した目的生成物であるアントラニル酸は得られないことを確認した。本反応ではイソシアネートおよび誘導体(1,3―ジフェニルウレア)が痕跡量確認され、六員環炭素上ではなくアミニル基の窒素上を反応点とする反応が進行している可能性が示唆された。量子化学計算により、フェニレンジアミンおよびアニリンそれぞれを由来とするアミニルラジカル中間体の最安定構造におけるスピン密度を比較したところ、アニリン由来の中間体の方が、六員環炭素上での孤立電子の分布の程度が小さく、相対的に窒素上での反応性が高いことを示唆する実験結果と矛盾しない計算結果が得られた。 一方、一置換芳香族アミン特有の問題点も明らかになった。フェニレンジアミンの反応混合物の1H NMRでは、生成物である2,3―ジアミノ安息香酸と未反応のフェニレンジアミンのみが検出されるのとは対照的に、アニリンの反応混合物のそれでは、非常に複雑な多数の共鳴線が観測された。これは、光反応を介して窒素上のみならず六員環炭素上をも反応点とする多段階の多量化反応が進行していることを示唆する結果であり、痕跡量の検出にとどまるイソシアネート(および誘導体であるウレア)の収率の向上を図るためには、これら目的外の反応を抑制し得る反応設計が重要であることが示唆された。
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