研究課題/領域番号 |
21K05084
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
鈴木 孝義 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 教授 (80249953)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 自然分晶 / キラリティ / 対称性の創出 / エナンチオ結晶 / 優先晶出 |
研究実績の概要 |
物質の光学活性の起源や自然界のホモキラリティの発現は、現代科学の重要な未解決問題のひとつである。本研究では、不斉要素を持たない有機配位子と金属塩からなるキラルな金属錯体が、結晶化する際に単一のエナンチオマー結晶のみを選択的に生成する極めて珍しい現象である「絶対自然分晶」の発現条件を詳細に調査し、その発現機構と結晶表面におけるキラリティ伝播のメカニズムを解明することを目的としている。生成する結晶のキラリティは、X線結晶構造解析及び固体CDスペクトル測定により確認している。 これまでの研究により、三脚状有機分子の配位により形成される亜鉛(Ⅱ)ーランタノイド(Ⅲ)ー亜鉛(Ⅱ)型三核錯体では、再結晶溶媒の種類とともにランタノイド(Ⅲ)イオンが結晶化挙動に決定的な影響を与えることが明らかとなった。ネオジム以降のランタノイドを含む三核錯体は結晶化する際に自然分晶を生じるが、特に偶数個のf電子を持つランタノイド(Ⅲ)イオンの場合に、絶対自然分晶が発現することを明らかにした。同様の傾向は、類似の三核構造を有するマンガン(Ⅱ)錯体でも観測されるが、コバルト(Ⅱ)及びニッケル(Ⅱ)類似三核錯体では自然分晶すら発生せず、これらの化合物の結晶化挙動には遷移金属とランタノイドの組合せが絶対的に重要であることがわかった。 さらに、これまでの結晶化実験ではΛ型の結晶のみが得られていた亜鉛(Ⅱ)ーテルビウム(Ⅲ)ー亜鉛(Ⅱ)三核錯体に対して、同型構造を有する亜鉛(Ⅱ)ーイットリウム(Ⅲ)ー亜鉛(Ⅱ)三核錯体のΔ型結晶を種結晶として加えることで、通常条件下では未確認であったΔ型の亜鉛(Ⅱ)ーテルビウム(Ⅲ)ー亜鉛(Ⅱ)三核錯体結晶が生成することを実証できた。このことから、絶対自然分晶を示す特殊な錯イオンであっても、結晶表面ではキラリティの伝播が起こっていることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、遷移金属(Ⅱ)イオンとランタノイド(Ⅲ)イオンの種々の組合せにより形成される一連の三核錯体について、その結晶化挙動を順に調査することを計画している。初年度の研究ではこのうち、亜鉛(Ⅱ)イオンと(通常の実験室では扱いが困難なプロメチウム及びツリウムを除く)全てのランタノイドイオンを含む錯体系列について検証を完成し、f電子数の偶奇性について考察することができた。また、これまでに予備的実験を行なっているマンガン(Ⅱ)、鉄(Ⅱ)及びコバルト(Ⅱ)に加えて、ニッケル(Ⅱ)イオンについても三核錯体の合成と結晶構造解析実験を開始し、これらの錯体の結晶化挙動に関するデータを蓄積しつつある。本研究は、化合物の結晶化実験と発現する結晶キラリティの検証に多大な時間と労力を必要とするため、上記した実験研究の進展はおおむね順調であると判断できる。 一方、種結晶を用いた優先晶出実験では、同形結晶構造を持つ錯体結晶間でキラリティの伝播が起こり、通常の結晶化条件ではこれまで得ることができなかった掌性の単結晶を得ることに成功した。このことは、今後に予定していた実験計画を遂行する上で重要な礎となった。この事実を元に、今後は通常の自然分晶を示す三核錯体でも、種結晶を加える、もしくは実験条件を変えることで絶対自然分晶を発現させる可能性を検証するに至った。また、通常の結晶化実験においてキラル源になっている可能性が考えられる埃の影響を最大限に排除した実験にも取り組んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
三核錯体の結晶化挙動に関する研究においては、一連のランタノイド(Ⅲ)錯体に対する系統的な調査をマンガン(Ⅱ)及び鉄(Ⅱ)について行い、ランタノイド(Ⅲ)イオンの持つf電子数と絶対自然分晶発現の相関を明らかにする。ただし、この両遷移金属(Ⅱ)イオンを含む錯体は空気中で徐々に酸化される可能性があるため、窒素雰囲気下で再結晶を行う等の実験操作上の工夫が必要になる。また、自然分晶を示さない類似のコバルト(Ⅱ)、ニッケル(Ⅱ)錯体については、亜鉛(Ⅱ)錯体のキラル結晶を種結晶として加えることでキラリティの伝播が起こり、キラル結晶が析出するかを実験的に検証する。 さらに、マンガン(Ⅱ)を含む一連の三核錯体について溶媒の効果を詳細に再検討する。生成する結晶が溶媒分子を含んでいるため、結晶化溶媒の選択は自然分晶及び絶対自然分晶の発現に決定的な影響を与えるはずである。溶媒分子の大きさや誘電率に着目し、系統的な結晶化挙動の実験的調査を行うとともに、計算化学的な手法を用いた分子レベルでのジアステレオ異性体間のエネルギー差の比較から、自然分晶の発生条件の解明を目指す。また、結晶表面での類似有機配位子のねじれ構造に着目して、同形構造ではない種結晶や類似単核錯体のキラルな結晶を用いた優先晶出実験にも取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度の実験では、目的とする三核錯体の合成に必要な遷移金属及びランタノイド金属塩、配位子の合成に用いる有機試薬等の消耗品費が当初の予定を超えて必要であった。一方で、実験の遂行に必要不可欠な固体CDスペクトル測定装置のキセノンランプ交換が不要であったため、その差額分のわずかな繰越金が発生した。次年度にはキセノンランプの交換が複数回必要になると予想されるため、繰越金の使用を予定している。
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