研究課題/領域番号 |
21K05087
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
松原 康郎 大阪市立大学, 人工光合成研究センター, 特任准教授 (90616666)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 電気化学 / 酵素 / 二酸化炭素還元 |
研究実績の概要 |
近年、様々な触媒を用いて二酸化炭素(CO2)からギ酸を生成させる反応が、持続可能な社会の構築の観点から注目されている。というのも、CO2の2電子還元体であるギ酸は常温常圧で液体であることから、水素ガスの安全な等価体(キャリア)としてみなされており、触媒により水素ガスそのものを発生させたり、燃料電池の燃料として用いることができる。すなわち、ギ酸生成をするということは、水素ガス生成とCO2固定化を一度にすることと同義である。そのため、ギ酸を生成する触媒の開発が盛んに行われている。しかし、極微量の貴金属もしくは普遍元素しか使用しないという条件下では、最小限のエネルギーで高選択にギ酸を生成できるような化学反応系は非常に限られている。ギ酸脱水素酵素(FDH)を用いる反応は数少ない例である。
本研究では、酵母candida boidinii由来のFDH(CbFDH)に注目し、CbFDHが人工補酵素を電子源としてCO2からギ酸を選択的に生成する反応の仕組みを明らかにすることを目的としている。CbFDHは大変興味深い酵素であり、反応中心に金属原子もフラボ蛋白質も持たないにもかかわらず、天然の補酵素NADHを電子源としてCO2からギ酸を選択的に生成することができる。さらには、NADHに代わり、人工的なメチルビオロゲンという分子でもCO2からギ酸を選択的に生成することができるため、CO2からギ酸を生成する非常に有用な仕組みが存在しているのではないかと考えた。2021年度は、主に、反応機構を計算化学的手法により明らかにするため、量子化学計算環境を整備し、CbFDHの酵素反応中心のモデル構築と計算手法の検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、反応機構解明の為、2つのテーマに沿って展開することを計画している:(1)二電子目の注入過程における反応機構の量子化学的手法による探索と、(2)二電子目の注入過程における反応の速度論の解明である。2021年度は、前者に関して、計算環境を整備し、CbFDHの酵素反応中心のQM/MMモデルに基づいた反応中心の電子構造を密度反関数法レベルで検討できることを確認することができた。また、ab initio 分子動力学計算も実施し、今後の詳細な検討において解決しなければならない問題も確認することができた。一方、後者に関しては、初歩的な検討を行ったところに留まった。これらのことから、概して全体を評価すると進捗状況としては「やや遅れている」といえる。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、前年度で得た量子化学的知見を活かし、実験結果とも比較検討できるような物理量(還元電位など)の算出に取り組む予定である。また、ab initio 分子動力学計算により、メチルビオロゲンラジカルを電子源としたCO2よりギ酸が生成する反応経路を理論的に予測できるかどうか検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度での検討により、反応経路の理論的予測のためには当初の予測よりも多くの計算資源を必要とすることがわかった。そこで2022年度では、外部の大規模計算機センターの利用を検討する。この追加費用は、今回の次年度使用額分で手当てすることを予定している。
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