研究課題/領域番号 |
21K05090
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
大月 穣 日本大学, 理工学部, 教授 (80233188)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 超分子化学 / ポルフィリン / 自己組織化 / 亜鉛錯体 |
研究実績の概要 |
本研究では,配位結合によってポルフィリンを組織化する多様な展開が可能な自己集合様式を提案している.人類のエネルギーと食糧を支えている最も重要な反応である光合成は,ポルフィリンに類似した分子が集合体に組織化されることではじめて実現されているという事実を示唆として,人工的に同様の構造を構築することができれば,人工的な光合成の実現が視野に入ってくると考えた.そこでまずは,ポルフィリン分子をどのように組織化することができるかを明らかにすることが重要になる.本研究ではそのために配位結合を利用してポルフィリン分子を組織化することを試みている.テルピリジンという金属イオンに配位結合する構造単位をポルフィリン本体部分に結合した分子を設計,合成し,金属イオンを混合することによってどのような構造が形成するかを明らかにするという当初目的に加え,ビピリジンを含むポルフィリンにも拡張して検討を行っている. 当初計画の分子設計(テルピリジンあるいはビピリジンの向き)では,金属イオンを加えたときに,おそらくはさまざまな集合体が生成して,構造が定まらないという問題が生じた.分子設計を見直し,ビピリジンの向きの異なる化合物を合成し,金属イオンによる組織化を検討したところ,構造の定まった二量体をきれいに生成することが明らかとなった.二量体中のポルフィリン環は平行に向かい合った構造を形成していることが示され,単量体よりも大きな化学種となっていることを示すデータも得られ,NMRスペクトルの詳細な解析から溶液中での二量体の構造を確定できた. 今後の展開として,電気化学特性の金属イオンによる制御,キラルセンサーへの展開,さらに今回得られたポルフィリン組織化モチーフを基本として展開する分子設計も行い,多様な組織構造形成への足がかりが得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画の分子設計(テルピリジンあるいはビピリジンの向き)では,金属イオンを加えたときに,おそらくはさまざまな集合体が生成するために,NMRスペクトルがブロードになり,構造を決定できないという問題が生じていた. 分子設計を見直し,ビピリジンの向きの異なる化合物を合成し,金属イオンによる組織化を検討したところ,当初計画の化合物と異なり,NMRの変化もはっきりと追うことができ,構造の定まった二量体を生成することが明らかとなった.新しく合成した化合物ZnPor(bpy)4は,亜鉛ポルフィリン(ZnPor)の周囲に金属イオン配位子であるビピリジン(bpy)を4つ持つ.溶液中で(亜鉛ポルフィリンの亜鉛とは別に)亜鉛イオンを加えていくと,ビピリジン部位が加えた亜鉛イオンと錯体を形成する.一つ目の亜鉛が錯体を形成すると2つ目以降が錯体を形成しやすくなるアロステリック効果を示しつつ,4ヶ所のビピリジン部位が4つの錯体を形成して二量体が完成する.二量体中のポルフィリン環の電子的相互作用を反映する電子吸収帯は短波長にシフトし,2枚のポルフィリン環が平行に向かい合った構造を形成していることを示した.NMRによる拡散測定から,亜鉛イオンがある状態で存在するポルフィリンの化学種は,ポルフィリン単分子よりも1.5倍ほど大きいサイズであることが見積もられた.さらに,NMRスペクトルの環電流効果のシミュレーションを行うことにより,溶液中での二量体の構造を確定できた.二量体は[(ZnPor(bpy)4)2Zn4]8+と表される超分子であり,それぞれのポルフィリンあたり4ヶ所のビピリジン部位で[Zn(bpy)2]2+を構造単位とする亜鉛錯体を形成している. 以上のように,おおむね順調に進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
得られたポルフィリン二量体中でポルフィリン環同士に強い電子的相互作用があることが示されていることから,電気化学的特性も単量体の場合から大きく変化している可能性がある.電気化学測定によってそれを明らかにする.金属イオンの存在によって電気化学特性が変化した場合には,例えばポルフィリンを触媒として用いる場合に,触媒活性を金属イオンによってON/OFFできる可能性があるので,金属イオン制御触媒としての研究を展開する. ポルフィリン環の周囲に形成する[Zn(bpy)2]2+錯体は,ポルフィリン環の存在によって右巻きと左巻きとが区別されるキラル錯体となっている.現段階では両者が1:1で混ざっている状態であるが,キラルなゲスト分子を存在させることによってどちらかを選択的に形成する可能性がある.その場合,ポルフィリン間の強い電子的相互作用によって大きな円偏向二色性が生じるはずなので,それを用いたキラル認識,キラルセンサーを検討する. 今回の分子設計がポルフィリンの組織化に有効であることがわかったので,さらに今後の発展として,それを基本モチーフとする新しい分子設計を行い,新たに合成を開始している.ピリジン環2つからなるビピリジンを3つからなるテルピリジンに置き換えたものがその一つである.ピリジンの数が異なることで用いる金属イオンとして別の種類を選択でき,新たな構造や機能を導入することができる.現在の分子設計ではビピリジンはポルフィリン平面の一方に存在するが,両面に存在する分子設計も行い,合成中である.この分子からは構造の定まった多量体が形成することが期待される.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は133,119円である.次年度使用が生じた主たる理由は以下の2点である.一つは,消耗品として化合物合成に用いる真空ラインの冷却トラップ用に定期的に液体窒素一式(100リットル47,000円)を購入しているが,液体窒素の消費量がばらつくのは不可避であることであり,もう一つは,「現在までの進捗状況」に記したように,分子設計を変更したことから当初予定の分子による解析系の実験を行なっていないことである. 「現在までの進捗状況」および「今後の研究の推進方策」に記したように,新しい分子設計による結果が順調なことから,この新しい化合物関連の解析系の実験に経費が必要であり,また,この新しい設計を基本モチーフとする誘導体の合成のための経費として活用する.
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