研究課題/領域番号 |
21K05093
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
小坂田 耕太郎 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 客員研究員 (00152455)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 金錯体 / 大環状分子 / 還元的脱離 / 複核錯体 |
研究実績の概要 |
各種の二座ホスフィン配位子を有する二核金(I)錯体の合成を行った。酸化還元能を有するチアンスレニル基を有するボロン酸を合成し、これを塩化金錯体と反応させることによって目標とする錯体合成に成功した。二核錯体を支持する二座ホスフィン配位子のメチレン鎖の炭素数が奇数の場合にはアンチの構造をとり、偶数の場合にはシンの構造をとることが、単結晶X線構造解析及びNMRスペクトルの解析によって明らかになった。配位子の構造と金属錯体のコンフォメーションの関係については、従来の関連研究とあわせて検討を行い、論文発表を行った。 類似の二核塩化金(I)錯体とビフェニレンジボロン酸を基質として反応させた。配位子としてメチレン鎖を有する二座ホスフィンを用い、芳香環が二核金部分を架橋して環状構造をもつ、大環状トリビフェニレン六核金(I)錯体を合成した。二核金属部分がねじれ構造を有するにもかかわらず、生成反応が円滑に進行したことから、この反応は可逆な結合解離、結合形成の繰り返しを伴う可逆な反応であることが示唆された。 上記の大環状六核金(I)錯体に対して 3 倍モル量の PhICl2 を作用させたところ,アリール配位子の C-C 結合形成を伴う還元的脱離が進行し,対応する[6]シクロパラフェニレンが選択的に生成した。二段階の反応全体の目的物の単離収率は66%であったが、副生物の存在は観察できなかった。また、反応によって生じる二核塩化金錯体を純度よく単離することができた。この二核塩化金錯体は、再度芳香族ボロン酸と反応させると、トランスメタル化によって有機金錯体を生成することがわかった。このことから、金錯体は繰り返し反応に利用することができることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二座ホスフィン配位子を有する二核遷移金属錯体の合成に成功し、その構造に対しての配位子の影響を明らかにし、これをACSOmega誌に掲載した。これは、錯体化学の分野で従来から指摘されながら系統的な研究が行われなかった領域である。したがって、これを系統的な研究から明らかにした点は錯体化学の分野、特に新しい立体構造を有する金属錯体の合成の領域に大きく貢献するものである。 さらに、目的としたビフェニレン配位子を有し、ねじれ部分構造をもつ六核金錯体の合成とその酸化による大環状分子の生成について新しい結果を得るとともに、これらを学会で口頭発表している。 第一に、ビフェニレン配位子を有する二核金錯体が高い選択性で大環状構造をとることが、新規性の高い結果といえる。これについては、可逆な配位結合の生成と開裂の繰り返しがおきるためであることが、本研究代表者の従来の研究成果をあわせた考察から明らかになっている。 第二に、上記の大環状六核金錯体から円滑な酸化反応、還元的脱離反応によってシクロパラフェニレンが生成したことは、錯体化学、有機化学の両面で重要である。錯体化学の立場からは、六個の炭素―金結合が同様に協奏的な反応をおこすことが明らかになり、この過程も錯体の生成と同様に可逆性が高いものであることがわかった。このような炭素―炭素結合形成につながる反応に可逆性が認められたことは非常に意義深い。さらに、有機合成化学の面からは、本法で合成できるシクロパラフェニレン等の大環状芳香族分子の種類が多数可能であると期待でき、今後の合成反応への応用が期待できるものである。 このような新規性が高く、学問分野での重要性が認められる成果を初年度にあげたことは、研究計画を適切に進めていることであり、順調に研究が進展していると評価される。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究では、ビフェニレン配位子を有する六核金(I)錯体を合成し、その構造を確定することに成功し、その酸化反応で[6]シクロパラフェニレンが生成することを明らかにした。この反応は、さらに大きな大環状六核金(I)錯体の合成とその酸化反応に展開できる可能性が高い。すなわち、用いるジボロン酸の有機基をトリフェニレン、テトラフェニレン等の芳香環に変化することによって、さらに大きな環状錯体を生成し、その構造はビフェニレン配位子を用いる六核錯体と構造歪の面ではほとんど変わらず、安定に得られると期待される。 この点に基づいて二年度目以降では、トリフェニレン、テトラフェニレン等の芳香族ジボロン酸を基質とすることによって、大きなサイズをもつ大環状金六核錯体を合成し、その酸化反応による大きなサイズのシクロパラフェニレンの合成を行う。 ボロン酸に各種官能基を導入することは容易であるため、メトキシ基等の官能基を有する芳香族ジボロン酸をもちいた大環状二核金錯体の合成および、これを酸化反応に用いた大環状の官能基化芳香族分子の合成を行う。シクロパラフェニレンの合成は、国内外の研究グループによって活発に研究が行われているが、概念として3n個の芳香環を連結した環状生成物が一連のサイズで合成できるという研究は進んでいない。本研究を発展させることによって、従来合成できなかった新しい環状化合物の生成が期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度に予定していた実験のうち一部は、令和4年1月以降のコロナウイルス感染の悪化により実施できなくなり、それに要する物品、器具の購入をすることができなくなった。 このため、一部の実験を実施できず、該当する72,541円についても年度内未使用となった。該当する実験については令和4年度に行い、相当する研究費についても当初の計画に従って使用を行う。
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