四個のメトキシ置換基を有するビフェニレンジボロン酸エステルを配位子前駆体とすることに用い、ジクロロ金二核錯体との反応によって環状六核金錯体を合成した。塩基として炭酸セシウムを用い、基質の量論を一致させて、50℃で反応を行うことによって、高収率で目的を単離することができた。 錯体の詳細な単結晶X線構造解析結果及びNMRスペクトルの解析により、隣接した二つずつの金と配位子とがねじれの位置の関係を形成しており、前年度までに合成した無置換芳香族二座配位子を有する六核金錯体と同様の構造を有することが明らかになった。メトキシ置換基の配向については、立体障害に基づいて、隣接する芳香環では同じであり、ビフェニレン部分は平面性が保たれていた。 上記で合成した六核金錯体を酸化剤を用いて処理したところ、複数の還元的脱離反応による炭素―炭素結合形成がおこり、六個のビスメトキシフェニレン基が環状に配列した有機分子を得ることができた。単結晶構造解析により、平均的な直径が8.15オングストロームであり、環状部分の内孔に溶媒分子を含んでいることがわかった。この化合物は、前年度までに合成に成功した無置換の[6]シクロパラフェニレンと同様な骨格を有するが、メトキシ基が多数置換しているために有機溶媒への溶解性が高く、各種のスペクトル測定やさらに化学反応を行うことが可能であるという利点を有する。 電気化学的および化学的な酸化還元反応の解析も可能となり、酸化によって生成するカチオンラジカルの吸収を長波長側の吸収スペクトルで同定することができた。
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