研究課題/領域番号 |
21K05101
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
石井 洋一 中央大学, 理工学部, 教授 (40193263)
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研究分担者 |
岩本 貴寛 中央大学, 理工学部, 助教 (50735355)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | β炭素脱離 / アルキン交換 / ロジウム錯体 / ビニル錯体 / ナフチルホスフィン |
研究実績の概要 |
β炭素脱離反応はC-C結合の活性化手法として近年注目されているが、アルケンやケトンを脱離する反応形式が主であり、アルキンを脱離するものはほとんど知られてない。本研究では、特別な歪のない遷移金属ビニル錯体からのβ炭素脱離によりアルキンを脱離する反応系を開発し、β炭素脱離反応の概念をより一般化することを目的としている。本年度は具体的な研究対象としてシクロメタル化したロジウムのナフチルホスフィン錯体を選び、アルキンのβ炭素脱離を温和な条件でも直接観察できる反応系を確立することを目指した。 まず、ナフチルホスフィンと[Cp*RhCl2]2から誘導できるロダサイクル錯体[Cp*RhCl{PPh2(C10H6)}] にNaBArF4存在下でジフェニルアセチレンを反応させるとカチオン性環状ビニル錯体1が得られ、この錯体がα位のフェニル基の配位によりη3-ベンジル型の構造を持つことを確認した。続いて1の反応性を検討したところ、0 °Cという驚くべき温和な条件下でもジ(p-トリル)アセチレンと反応し、アルキン部分の交換により1とそのp-トリル置換体の平衡混合物を与えた。一方、室温あるいは0 °C の条件下で、1と2-ブチンとの反応からはジフェニルアセチレンのβ炭素脱離と2分子の2-ブチンの連続挿入により9員環ロダサイクル錯体が、一方1と3-ヘキシンとの反応からはアルキン交換ののちP-C間で還元的脱離したη4-ホスファフェナレニウム錯体が、それぞれ得られた。1とPPh3との反応はジフェニルアセチレンが脱離したのち金属中心にホスフィンが配位した生成物を高収率で与えた。いずれも、β炭素脱離が極めて温和な条件で進行できることを示している。以上から、アルキンのβ炭素脱離プロセスは従来ほとんど未知であったものの、実際には温和な条件下で進行可能であることを実験的に証明できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
有機遷移金属の関与する変換反応の中でも重要な反応形式であるβ脱離反応に関しては、以前はもっぱらβ水素脱離が研究されていたが、近年はβ炭素脱離も可能であることがわかり、C-C結合の活性化手法として注目されるに至っている。しかし、このβ炭素脱離もアルキル錯体やアルコキシド錯体からアルケンやケトンを脱離する反応例に限られ、アルケニル錯体からアルキンを脱離する例は極めて限られていた。本研究はこの点に着目し、歪みのないメタラサイクル型のアルケニル錯体からのアルキンのβ炭素脱離を開発しようとするものである。本年度は実際にナフチルホスフィンとジフェニルアセチレンから誘導されるロダサイクル錯体を対象に検討したところ、0 °C~室温という、想定以上に温和な条件下でもβ炭素脱離が進行して、脱離後の錯体をホスフィン錯体としてトラップしたり、ジフェニルアセチレン部分を他のアルキンと交換したりできることが明らかになった。従来、アルキンのβ炭素脱離を経るとされる反応としては実質的に(アルキル)(アルキン)ニオブ錯体の異性化反応が知られているのみであり、本反応系はより一般的な反応系においてもアルキンのβ炭素脱離が実施可能であることを示した最初の例であると考えている。この研究成果はOrganometallics 2022, 41, 182-186に発表した。 このように、研究目的は順調に達成されつつあり、研究の進捗はおおむね順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、ナフチルホスフィンから誘導されるメタラサイクル錯体系だけでなく、フェニルピリジンから誘導される系についても検討を予定している。具体的には、ロジウムの2,3,4,5-テトラフルオロ-6-(2-ピリジル)フェニル錯体にジフェニルアセチレンを挿入させたロダサイクル錯体2を用いて、アルキンの挿入の可逆性を検討する。類似のイリジウム錯体を用いた内部アルキンのビニリデン転位を以前に検討した際には、アルキン挿入とC-N還元的脱離で生成したη4-ベンゾキノリジニウム錯体からβ炭素脱離などを経てアルキン錯体を再生し、さらにビニリデンへ異性化したと想定される反応が観測された。しかし、この反応系は後続反応を含む複雑な系であり、全体の反応機構の解明には至らなかった。本研究では中心金属をロジウムに変更して検討を開始しており、予備的検討では2と別のアルキンの間で交換が実際に進行することを確認した。この反応系は、メタラサイクル錯体2と、そこからC-N還元的脱離したベンゾキノリジニウム錯体の平衡も同時に観測される系であることから、本年度はこのC-N間の還元的脱離・酸化的付加とβ炭素脱離・挿入反応を含む化学平衡および反応速度について詳しく検討し、β炭素脱離の反応機構の解明を進める。また、2と反応させるアルキンの置換基をさまざまに変えた場合の効果を明らかにし、β炭素脱離をより一般化する場合にどのような反応系の設計が望ましいかについての知見を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度はコロナ感染症の影響により学会がオンライン化されたため、予定していた旅費支出がなかったが、試薬等の消耗品費が予算を若干上回ったため、全体としては2021年度の使用予定額とほぼ同額の支出があり、次年度使用額はごく少額の端数にとどまっている。繰越額がほとんどないことから、2022年度は当初予定額の支出を予定している。
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