研究課題/領域番号 |
21K05102
|
研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
和田 亨 立教大学, 理学部, 教授 (30342637)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 二酸化炭素 / 還元 / 光触媒 / レニウム錯体 |
研究実績の概要 |
エネルギー・環境問題を解決し持続可能な社会を実現するためには、太陽光エネルギーを用いて二酸化炭素を高付加価値の化合物へ変換する触媒が必要である。本研究は可視光照射による四電子以上の二酸化炭素多電子還元反応(ホルムアルデヒドやメタノールの生成)を触媒する二核遷移金属錯体を開発することを目的とする。研究代表者が独自に開発した二核化配位子で架橋した二核ReおよびRu錯体を用いて、二酸化炭素の二重活性化あるいは二重ヒドリド移動による多電子還元を実現する。 さらに、二核光増感剤によって1光子励起2電子移動を効率化し、これらを組み合わせた高活性な触媒系の構築を目指し研究を行った。2021年度は、まず二核Re錯体による光化学的二酸化炭素還元反応について検討を行った。光触媒として二核Re錯体[{fac-Re(CO)3Cl}2(bbpan)](1, bbpan = ビス(ビピリジルフェニル)アントラセン)、犠牲試薬としてジメチル-2-フェニル-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾ[d]イミダゾール(BIH)を含むDMF/TEOA (4/1, TEOA = トリエタノールアミン)溶液を二酸化炭素で飽和し、450 nm以上の可視光を照射したところ一酸化炭素を選択的に生成した。錯体触媒1の触媒回転数(TON)は541、触媒回転頻度(TOF)は9.83 min-1、内部量子収率は0.33であった。この値は、対応する単核錯体[Re(CO)3Cl(bpy)] (bpy = ビピリジン)のTONの5倍に相当する。このことから触媒の二核化によって一酸化炭素生成の効率が著しく向上することが明らかとなった。さらに、TEOAを含まないDMF溶液に錯体1とBIHを溶解し、アルゴンで脱酸素した後、光照射を行うとRe-Re結合を有する錯体が生成した。ここに二酸化炭素を吹き込むと、Re間に二酸化炭素が挿入した錯体が生成した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の成果として、二核Re錯体1が高効率な光化学的二酸化炭素還元触媒として機能することを見出した。これは、同じ光吸収と発光特性を有する二つのRe(bpy)部位が極めて近傍に存在するために、励起状態における共鳴相互作用が生じたためだと考えられる。このような励起状態の相互作用を活用した分子性光触媒の報告は無く、新しいタイプの触媒系へと発展することが期待される。さらに、錯体1は反応条件を変えることによって光化学的にRe-Reを形成し、そこへ二酸化炭素を挿入した化合物を安定に生成することを明らかにした。これは本研究計画において鍵となる二酸化炭素を二重活性化した反応中間体に相当する。この中間体の酸化還元挙動と光物性を検討することによって、目的とする二酸化炭素の四電子以上の還元が可能になるものと期待している。また、この二核Re錯体の対照実験として合成したアントリル基を有する単核Re錯体2は、可視光照射によって二酸化炭素を一酸化炭素へ還元した。予想外にその量子収率は錯体1を大きく上回った。これは、アントリル基とRe(bpy)部位との間でフェルスター型の共鳴エネルギー移動(FRET)が生じているためだと考えている。このように、当初計画では予期していなかった分子内における励起状態の共鳴やエネルギー移動が、触媒活性の向上に有効であることを見出した。以上の理由から、本研究は当初計画以上に大きく進展していると判断している。
|
今後の研究の推進方策 |
2021年度の研究によって、二核Re錯体1と単核Re錯体2では励起状態の分子内共鳴やエネルギー移動が触媒活性を向上させることが示唆された。これを踏まえて、2022年度は、まず二核Re錯体1と単核Re錯体2の励起状態における電子状態を解明する。その為には高速の過渡吸収スペクトル測定が必要であり、他大学の分光測定を専門とする研究者と共同研究を開始する予定である。さらに発光寿命測定や消光速度定数など基礎的な光物性の情報と合わせて、反応機構を解明する。この結果は、新しい分子性光触媒の開拓につながるものと期待している。さらに、2021年度に明らかにした錯体1の光化学反応によるRe-Re結合の生成、さらには二酸化炭素挿入反応の詳細について検討する。現在までに、BIH存在下において錯体1に可視光を照射すると速やかにRe-Re結合を有する錯体へと変換され、その後の二酸化炭素挿入は遅いことが明らかになっている。二酸化炭素挿入の遅さが触媒的な多電子還元の妨げになっていると考えられる。そこで、高圧反応装置を用いて数MPa程度の二酸化炭素加圧条件で光化学もしくは電気化学的な二酸化炭素還元反応を行う。また、二酸化炭素が挿入した中間体を単離し、その構造を解明する。この中間体の性質を詳細に検討することは、二酸化炭素の多電子還元を実現するために必須だと考えている。得られた情報を踏まえて、RuやIrなどの光増感剤を組み合わせて、二酸化炭素の多電子還元を実現したい。増感剤としては、本研究で開発中の二核RuおよびIr錯体も用いて、多核増感剤の効果について検証する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2022年3月末に本研究の成果に関わる論文を3報投稿し、現在査読中である。その英語校閲費と投稿料を2022年度予算として約16万円を2021年度予算から組み入れた。これらの論文掲載が決定したら、実験費・謝金およびその他として執行する予定である。
|