本研究の目的は、独自に開発したジチオナイト錯体の結晶が示す「2つのメカニカル機能(光照射によって、結晶が屈曲する機能と弾ける機能)」を起点に、合目的的にメカニカル結晶を開発することである。研究期間内(3年間)に、新規なジチオナイト錯体の設計・合成を通して、上記2つのメカニカル機能の諸特性と分子・結晶構造との相関を明らかにし、ジチオナイト錯体によってメカニカル材料を創製する基礎(分子設計指針)を確立することを目指して研究を実施した。 最終年度となる令和5年度は、重点項目1である「屈曲する機能の理解」および重点項目2である「弾ける機能の理解」をさらに進展させることに加えて、当初の計画通り重点項目3である「メカニカル機能の制御と特異な機能の開発」にも力を入れて研究を進めた。本年度は、i)重点項目1の進展に寄与する「炭素数が12のn-ドデシル基を導入した新規ロジウムジチオナイト錯体」、ii)重点項目2および3の進展に寄与する「ジチオナイト錯体(S2O4錯体)よりも酸素の数が一つ多い硫黄酸化物を配位子とする新規な硫黄酸化物錯体(S2O5錯体)」の合成に成功し、これらの結晶の光応答挙動を明らかにした。すなわち、メカニカル機能の発現における「長鎖アルキル基」および「ジチオナイト配位子」の役割に関する知見を得ることができた。 研究期間全体を通じては、種々の置換基を有する新規ジチオナイト錯体およびジチオナイト錯体の類縁錯体の合成に成功し、メカニカル材料の創製につながる「メカニカル機能の諸特性と分子・結晶構造との相関」に対する知見を得ることができた。研究期間内(3年間)に得られた成果は、日本化学会春季年会等で発表(6件)するとともに5報の学術論文としてまとめた。
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