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2022 年度 実施状況報告書

有機金属錯体の結晶構造と動的挙動を解析するための汎用力場の開発

研究課題

研究課題/領域番号 21K05105
研究機関コンフレックス株式会社(研究)

研究代表者

中山 尚史  コンフレックス株式会社(研究), 研究, 主任研究員 (90402669)

研究期間 (年度) 2021-04-01 – 2024-03-31
キーワード希土類錯体 / 発光特性 / ベイポクロミズム / Ni(II)-キノノイド錯体 / 結晶構造探索 / ベンズ(a)アントラセン / 結合クラスター計算
研究実績の概要

本研究では、有機金属錯体で構成される分子性結晶の構造変化に伴う物性を計算化学的手法により解析するため、結晶構造とその動的挙動の両方を再現することを志向した汎用的な古典力場の開発を進めている。2022年度は、発光特性を示す新奇希土類錯体についての解析(1)と、メタノールを選択的に吸収しベイポクロミズムを示すNi(II)錯体の結晶構造の特定(2)、さらにベンズ(a)アントラセンの基底状態およびS1励起状態の分子構造を特定した。
(1)北海道大学長谷川グループらとの共同研究により、強い発光特性を示しかつ異なる希土類元素を連結することで光情報を一方向に伝達することを見出した錯体について、その連結過程で重要なピリジンの配位と、錯体単体での発光波長を、量子化学計算により解析することに成功した[Nature Commun. 2022, 13, 3660]。
(2)東京都立大学波田・中谷グループ、および関西学院大学加藤グループとの共同研究により、メタノール蒸気を選択的に吸収してオレンジ色に呈色(ベイポクロミズム)するNi(II)-キノノイド錯体の、結晶構造が特定できていないメタノール吸収前の錯体の結晶構造について、この錯体に適した分子力場を構築して結晶構造探索を行い、得られた構造に対してさらにDFT-D計算を行った結果を実験データと照らし合わせることで、結晶構造を特定することに成功した[J. Phys. Chem. A, 2022, 126, 7687-7694]。
(3)京都大学馬場グループらとの共同研究により、ベンズ(a)アントラセンの基底状態およびS1励起状態について、それぞれの分子構造を、高精度の分子分光実験とDFTおよび結合クラスター計算により得られた回転定数や振動数を元に特定した[J. Chem. Phys. 2022, 157, 234303]。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

有機金属錯体は、中心金属と配位子との組み合わせにより様々な光学特性や触媒活性を呈し、その性質を決定するのは固体であればその結晶構造と、外部刺激による構造変化である。古くから、密度汎関数法を中心とした電子状態計算により結晶構造を再現し、その物性を解明する試みが行われている。一方で、遷移金属を含まない有機分子のみの系では、様々な構造を広く網羅する必要性から、古典的な分子力場による構造解析も多く為されている。有機金属錯体の結晶構造を、古典力場を用いた分子シミュレーション手法により正確に特定することができれば、結晶構造未知の錯体について候補構造を網羅的に探索し安定構造を見出すために要する時間の大幅な短縮が期待できる。
今年度の研究では、東京都立大学波田・中谷グループ、および関西学院大学加藤グループとの共同研究により、メタノール蒸気を選択的に吸収してオレンジ色に呈色(ベイポクミズム)するNi(II)-キノノイド錯体について、既知の結晶構造を再現する分子力場を新たに構築し、これを用いてメタノール吸収前の未知結晶構造について結晶構造探索を行い、得られた構造についてDFT-D計算を行うことでそれぞれの構造の電子状態とエネルギーを求めて、安定構造によるスペクトルを実測データと比較することで結晶構造未知の錯体構造を特定することに成功した。本研究により、系に適した分子力場を用いて結晶構造を探索する有用性が示され、パラメーターセットを作成するノウハウが新たに蓄積された。

今後の研究の推進方策

今年度は、まず電気通信大学平野グループとの共同研究で、結晶が熱分解することに伴い発光を呈するジフェニルアントラセンについて、溶液中よりも高い温度で分解・発光が生じるメカニズムを、粉末X線回折や熱測定に加えて量子化学計算により明らかにしており、現在論文投稿中である。
また、大阪大学福澤グループおよび星薬科大学米持グループと共同で、ケンブリッジ結晶学データセンターが開催している第7回CSP Blind Testにエントリーしており、今年度中に論文が発表される予定である。本エントリーでは、有機分子の結晶構造間のエネルギー評価にフラグメント分子軌道法を適用しており、その有効性が示されている。
最終年度のまとめとして、昨年度、一昨年度で発表した有機金属錯体用の結晶力場を構築した際に蓄積したノウハウを整備し、これと並行して、力場で求めた構造をフラグメント分子軌道法により再度エネルギー評価を行い、得られたデータを元にパラメーターの再修正を行う枠組みを設計する。これにより、結晶構造探索による予測精度の向上が期待される。さらに、結晶構造の再現や予測だけでなく、結晶相転移などの動的な挙動についても同様に検証し、緩やかな外部刺激により構造変化を引き起こす有機金属錯体結晶について、これを元にした材料設計に資する計算化学システムの構築を目指す。

  • 研究成果

    (7件)

すべて 2022

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件)

  • [雑誌論文] Preparation of photonic molecular trains via soft-crystal polymerization of lanthanide complexes2022

    • 著者名/発表者名
      Ferreira da Rosa Pedro Paulo、Kitagawa Yuichi、Shoji Sunao、Oyama Hironaga、Imaeda Keisuke、Nakayama Naofumi、Fushimi Koji、Uekusa Hidehiro、Ueno Kosei、Goto Hitoshi、Hasegawa Yasuchika
    • 雑誌名

      Nature Communications

      巻: 13 ページ: 3660

    • DOI

      10.1038/s41467-022-31164-z

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Theoretical Study on the Vapochromic Ni(II)?Quinonoid Complex: One-Dimensional Stacking Structure-Based Color Switching2022

    • 著者名/発表者名
      Nomiya Kaito、Nakatani Naoki、Nakayama Naofumi、Goto Hitoshi、Nakagaki Masayuki、Sakaki Shigeyoshi、Yoshida Masaki、Kato Masako、Hada Masahiko
    • 雑誌名

      The Journal of Physical Chemistry A

      巻: 126 ページ: 7687~7694

    • DOI

      10.1021/acs.jpca.2c06079

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Electronic, vibrational, and rotational analysis of 1,2-benzanthracene by high-resolution spectroscopy referenced to an optical frequency comb2022

    • 著者名/発表者名
      Katori Toshiharu、Kunishige Sachi、Baba Masaaki、Nakayama Naofumi、Ishimoto Takayoshi、Nishiyama Akiko、Yamasaki Sho、Misono Masatoshi
    • 雑誌名

      The Journal of Chemical Physics

      巻: 157 ページ: 234303~234303

    • DOI

      10.1063/5.0129297

    • 査読あり
  • [学会発表] Ni(II)キノノイド錯体のベイポクロミズムに関する理論的研究2022

    • 著者名/発表者名
      野宮海音、中山尚史、後藤仁志、加藤昌子、中谷 直輝、波田 雅彦
    • 学会等名
      第24回理論化学討論会
  • [学会発表] 高分解能レーザー分光によるtrains-スチルベンのS1←S0遷移の研究2022

    • 著者名/発表者名
      清水陽、笠原俊二、馬場正昭、中山尚史
    • 学会等名
      第16回分子科学討論会
  • [学会発表] Ni(II)キノノイド錯体のベイポクロミズムに関する理論的研究2022

    • 著者名/発表者名
      野宮海音、中山尚史、後藤仁志、加藤昌子、中谷 直輝、波田 雅彦
    • 学会等名
      錯体化学会第72回討論会
  • [学会発表] Triboluminescence via chemical reaction of nitrate at the interface of chiral lanthanide complex pillars2022

    • 著者名/発表者名
      Reo OHNO, Yukina YAMAMOTO, Akira SASO, Hitomi OHMAGARI, Daisuke SAITO, Masanobu KARASAWA, Masako KATO, Kazuyuki ISHII, Naofumi NAKAYAMA, Miki HASEGAWA
    • 学会等名
      錯体化学会第72回討論会

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公開日: 2023-12-25  

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