研究実績の概要 |
本研究では、有機金属錯体で構成される分子性結晶の構造変化に伴う物性を計算化学的手法により解析するため、結晶構造とその動的挙動の両方を再現することを志向した汎用的な古典力場の開発を進めている。2022年度は、発光特性を示す新奇希土類錯体についての解析(1)と、メタノールを選択的に吸収しベイポクロミズムを示すNi(II)錯体の結晶構造の特定(2)、さらにベンズ(a)アントラセンの基底状態およびS1励起状態の分子構造を特定した。 (1)北海道大学長谷川グループらとの共同研究により、強い発光特性を示しかつ異なる希土類元素を連結することで光情報を一方向に伝達することを見出した錯体について、その連結過程で重要なピリジンの配位と、錯体単体での発光波長を、量子化学計算により解析することに成功した[Nature Commun. 2022, 13, 3660]。 (2)東京都立大学波田・中谷グループ、および関西学院大学加藤グループとの共同研究により、メタノール蒸気を選択的に吸収してオレンジ色に呈色(ベイポクロミズム)するNi(II)-キノノイド錯体の、結晶構造が特定できていないメタノール吸収前の錯体の結晶構造について、この錯体に適した分子力場を構築して結晶構造探索を行い、得られた構造に対してさらにDFT-D計算を行った結果を実験データと照らし合わせることで、結晶構造を特定することに成功した[J. Phys. Chem. A, 2022, 126, 7687-7694]。 (3)京都大学馬場グループらとの共同研究により、ベンズ(a)アントラセンの基底状態およびS1励起状態について、それぞれの分子構造を、高精度の分子分光実験とDFTおよび結合クラスター計算により得られた回転定数や振動数を元に特定した[J. Chem. Phys. 2022, 157, 234303]。
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