研究実績の概要 |
本研究では、有機金属錯体で構成される分子性結晶の構造変化に伴う物性を計算化学的手法により解析するため、結晶構造とその動的挙動の両方を再現することを志向した汎用的な古典力場の開発を進めている。2023年度の研究実績は以下の通りである。 (1)シュプリンガー・ネイチャー社より出版された「Soft Crystals Flexible Response Systems with High Structural Order」(https://doi.org/10.1007/978-981-99-0260-6)において第10章「Molecular Crystal Calculation Prospects for Structural Phase Transition」の執筆を担当し、今までに実施した有機金属錯体の分子力場開発と、開発した力場を用いた分子性結晶構造の計算について記した[https://doi.org/10.1007/978-981-99-0260-6_10]。 (2)電気通信大学平野グループらとの共同研究により、結晶が熱分解することに伴い発光を呈する9,10-ジフェニルアントラセンについて、溶液中よりも高い温度で分解・発光が生じるメカニズムを、粉末X線回折や熱測定に加えて、分解反応機構を密度汎関数計算により明らかにすることで解明した[Bull. Chem. Soc. Jpn. 2023, 96, 793-801]。 (3)岡山大学宮本グループらとの共同研究により、フリーベースフタロシアニンの基底状態およびS1励起状態について、それぞれの分子構造を、高精度の分子分光実験と密度汎関数計算により得られた回転定数を元に特定し、さらに高精度の結合クラスター計算によりS1<-S0遷移エネルギーの再現に成功した[J. Chem. Phys. 2024, 160, 144304]。
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