本研究では、耐熱性・耐薬品性を有する多数の合成細繊維から成る細繊維束を用いて、組紐型の試料抽出媒体ならびに分離用固定相の開発に取り組んだ。それぞれ数百本の細繊維から形成される細繊維束を組紐状に編み上げる際、組紐内部に形成される空洞部に他の各種繊維状の素材を導入した。これにより、組紐の構成要素として高強度の合成細繊維束を導入することにより、編み上げ後の組紐表面の平滑性を確保しつつ、キャピラリー内部へ充填時の空隙体積を大幅に低減できる一方で、多数の細繊維による大きな総表面積を確保できることから、従来法に比べて、多様な抽出・分離選択性を有し、抽出性能に優れたマイクロスケール試料前処理媒体ならびに分離媒体が開発できた。 最終年度は、これまでの組紐型抽出デバイスならびに分離デバイスに関する本研究課題の研究成果を活かして、組紐内部に高熱伝導性の細い金属ワイヤーを導入する新規マイクロ試料抽出デバイスを開発した。この組紐内に内蔵された金属ワイヤーに電源装置からの電流を通電することにより、水系試料中の微量芳香族化合物に対して試料の抽出が可能であり、かつ、抵抗加熱による効率的な試料脱着が達成できたことから、金属ワイヤー内蔵型細繊維組紐のマイクロスケール試料前処理デバイスとしての有用性が確認できた、。 今後、より精密な通電プログラムに基づく高速かつ精密な温度管理を行うこと、組紐を充填する細管の材料等を最適化することにより、液体試料用の高性能試料前処理デバイスとしてのみならず、高速昇温分離用充填キャピラリーカラムへの応用、更には、二次元分離インターフェイス、すなわちモジュレーターとしての応用も考えられる。
|