研究課題/領域番号 |
21K05113
|
研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
渡辺 茂 高知大学, 教育研究部総合科学系複合領域科学部門, 教授 (70253333)
|
研究分担者 |
内山 淳平 岡山大学, 医歯薬学域, 准教授 (20574619)
仁子 陽輔 高知大学, 教育研究部総合科学系複合領域科学部門, 助教 (20782056)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 金ナノ粒子 / 磁性ナノ粒子 / バクテリオファージ / 磁気分離 / 暗視野顕微鏡法 / 光散乱 / プラウモニクス |
研究実績の概要 |
微生物検査は,食中毒をはじめ薬剤耐性菌による院内感染の発生など感染症の予防・診断・治療において極めて重要である.宿主細菌に対して特異的に感染するバクテリオファージ(“天敵ウイルス”)を機能性ナノ粒子とハイブリッド化することによって,PCR法や免疫検出法に代わる新たな細菌検出技術への応用が期待できる.細菌検出の高感度化には,検体中から特定の細菌のみを濃縮する磁気分離が不可欠である.本年度は,ファージと磁気ナノ粒子を利用した細菌の磁気分離について検討した. 磁性ナノ粒子を利用した細菌の分離精製では,素早い磁気分離と磁場のない環境では速やかな再分散が求められる.磁性ナノ粒子は,粒径を数十nm以下にすると強磁性から超常磁性となり,磁場のない環境では速やかに分散するが,磁気分離は粒子径が大きくなるほど速くなるため,粒径の小さな超常磁性体単独では磁気分離に長い時間が必要となる.そこで,粒径が数百nmのシリカ粒子を鋳型として,その表面に粒径が数nmのFe系磁性ナノ粒子を被覆することによって細菌分離用の磁性ナノ粒子を合成し,その磁気ヒステリシス測定より室温では超常磁性を示すことがわかった. 次に磁性ナノ粒子表面にカチオン性ポリマーを被覆した後,静電的相互作用を利用してファージの配向を制御しながら粒子表面にファージを固定化したファージ修飾磁性ナノ粒子を調製した.得られたファージ修飾磁性ナノ粒子と細菌を混合後,磁石を近づけるとすべての磁性ナノ粒子が容器の壁面に引き寄せられ,磁石を遠ざけると速やかに再分散した.さらに,光学顕微鏡法を用いて濃縮された磁性ナノ粒子を観察した.試料中の細菌が磁性ナノ粒子を被覆する宿主である場合のみ捕捉されている細菌が確認されており,ファージ修飾磁性ナノ粒子を利用して選択的に細菌を磁気分離できることがわかった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症の拡大防止対策により,年度途中で研究活動が制限され,当初計画通りに実験を実施できなかった.
|
今後の研究の推進方策 |
本研究では,ファージを多種多様な細菌を識別する“天敵ウイルス素子”と見なし,その優れた宿主認識機能を失わせることなく,機能性ナノ粒子と組み合わせることによって新たな細菌検出技術の開発をめざしており,3つの到達目標を掲げている. 【研究目標1】ファージ機能制御技術の開発:ファージは,細菌に感染し菌体を溶かして増殖するウイルスであり,ファージのライフサイクル(吸着,侵入,生合成,成熟,放出)のうち,吸着機能のみ発揮させる方法について検討する. 【研究目標2】高感度な細菌検出を指向した機能性ナノ粒子の創製:優れた光学特性と磁気特性の両方を兼ね備えた磁性-プラズモンハイブリッドナノ粒子や半導体ナノ粒子をも凌駕する高輝度蛍光性ナノエマルションを設計・合成する. 【研究目標3】ファージと機能性ナノ粒子を利用した新奇な細菌検出原理の実証:ファージの優れた細菌特異性とプラズモンナノ粒子の強力な光散乱特性や蛍光性ナノエマルションの高い発光特性を利用した新たな高感度・高選択的な細菌検出原理を提案・実証する. 本年度は,研究目標2について細菌の磁気分離に優れる磁性ナノ粒子を開発した.次年度は,金ナノ粒子とのハイブリッドナノ粒子を開発し,細菌を磁気分離後,暗視野顕微鏡法を利用して選択的に検出する方法について検討する.
|
次年度使用額が生じた理由 |
(理由)新型コロナウイルス感染症の拡大防止対策により研究活動が制限さるなど,当初予定していた実験計画の一部を実施できなかったこともあり,試薬等の消耗品費が当初予定額を下回った.また,出席を予定していた学会が,すべてオンライン開催となり,研究成果発表旅費を支出する必要がなくなった. (使用計画)2021年度に実施できなかった実験計画を実行し,金属ナノ粒子をはじめ高分子ミセルやナノエマルションのような機能性ナノ粒子を作製する無機合成試薬や有機合成試薬の購入など消耗品費として利用することを計画している.
|