研究課題/領域番号 |
21K05115
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
神崎 亮 鹿児島大学, 理工学域理学系, 准教授 (50363320)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 電解質溶液論 / リチウムイオン二次電池 / 電解質高分子 / 水系電池電解質 / 濃厚電解質溶液 / 反応熱力学 / 酸解離平衡 |
研究実績の概要 |
本研究の大目標は,デバイ-ヒュッケル則では扱えないような濃厚電解質溶液中においてイオンがどのような状態で溶存しているかを記述できることになることである.本研究課題では,従来では例を見ない超濃厚条件を作り出すことができる電解質であるリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTf2N)水溶液中において,酢酸およびポリアクリル酸の酸塩基反応熱力学量から,超濃厚電解質溶液の酸塩基反応媒体としての特性にアプローチした. LiTf2N超濃厚水溶液中では,Li+水和錯体である[Li(H2O)4]+がH+のキャリア,すなわち溶媒の共役酸であることが示唆された.負電荷をもったTf2N-ではなく正電荷を持った化学種である[Li(H2O)4]+イオンがH+を受容体として振る舞うことは興味深い.結果として,エンタルピー的に,すなわち内部エネルギー的に極めて不安定な状態を作る.このことは,濃厚LiTf2N水溶液中においていわゆる「自由水」が存在しないといった従来の主張とも一致するし,またイオン対を生成するという近年の結果とも整合性がある.一方,溶媒の共役塩基は,LiTf2N濃度とは関係無く,濃厚LiTf2N溶液の特異な性質に寄与しているのは本質的にLi+と結論付けられた.加えて,共存LiTf2Nの高分子電解質の電離平衡に対するLi+濃縮の影響も見出した.その寄与は,しかしながら,酸塩基反応エネルギーと比較して小さく,超濃厚LiTf2Nの実効的な電解質効果は極めて低減されている可能性がある.酸塩基反応,高分子電解質いずれに対しても,超濃厚LiTf2Nの影響は平衡定数,すなわちギブスエネルギーに関しては小さく,エンタルピー・エントロピーの寄与が大きかった.エントロピー・エンタルピー相殺効果は,この寄与が構造形成と破壊に起因していることを裏付けると同時に,反応熱測定の重要性を物語っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.水・LiTf2Nの部分モル体積:超濃厚LiTf2N水溶液を水-LiTf2N混合溶媒とみなし,それぞれの部分モル体積を見積もった.高濃度領域におけるモル分率依存性は,以前報告されていた接触イオン対(CIP)の生成分率と良く一致している.CIP生成によってTf2N-の回転異性化が制限された結果,よりフレキシブルな構造が可能であるSSIP(溶媒分離イオン対)よりもやや増大したと結論付けた. 2.溶媒の酸塩基性①(酢酸の酸解離反応熱力学):超濃厚LiTf2N水溶液中における酢酸のpKaおよび電離エンタルピーを測定した.pKaの変化はDebye-Huckelから予想される依存性とは逆転しており,LiTf2Nによる溶媒の酸塩基性の変化が明快に示された.電離エンタルピーの変化はpKaより顕著であり,溶媒のH+キャリアがH2Oから[Li(H2O)4]+に遷移したことを示すものである. 2.溶媒の酸塩基性②(自己解離平衡):超濃厚LiTf2N水溶液中における自己解離反応エンタルピーを測定した.酢酸の場合と似たLiTf2N濃度依存性を示したことから,その変化が溶媒のH+の違いに帰属されたことと合致する.一方,OH-の関与する反応エンタルピーはLiTf2N依存性を示さなかった.濃厚LiTf2N水溶液が示す希薄溶液との違いにおいて,OH-の果たす役割は大きくないと結論し得る. 3.高分子電解質の電離平衡:超濃厚LiTf2N水溶液中におけるポリアクリル酸(pAA)の電離平衡および電離エンタルピーを測定した.pAAの単量体一塩基酸である酢酸の場合と異なり,電離エンタルピーは電離度依存性を示した.これは,高分子電解質の電離反応に対する本質的な共存電解質効果である.ただしその依存性の大きさは,溶媒の酸性度の増加と比較して相対的に影響は小さかった.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,超濃厚LiTf2N水溶液の特徴において,従来の「バルク水が無くなった」という定性的な描像から一歩進み,その影響の起源をエネルギー的観点から定量化することができた.熱力学的な効果は,構造論からは得られない,電解質を評価する上で重要な情報であり,本研究手法の有用性が明らかとなった.今後は以下の方針で進めたい. 1.動的効果:本研究の動機の1つに,超濃厚LiTf2N水溶液中において酸化還元窓が広がるメカニズム解明がある.重要な可能性のある要素として,動的効果,すなわちリチウム酸化還元反応の速度論に取り組む必要がある.このことはリチウム過電圧と関係する. 2.リチウムイオン活量の決定:本研究では酸塩基反応,すなわち水素イオン授受反応を通して溶媒の性質を評価した.酸塩基反応は溶液中においてイオンの関係する最も基本的な反応であるから,このこと自体は普遍的な情報を与えるが,これに加えてリチウムイオンの活量を決定するような分析方法を確立したい. 3.超濃厚電解質溶液の実効的なイオン強度の影響:興味深いことに,超濃厚LiTf2Nが高分子電解質に及ぼす影響は小さく,LiTf2N濃厚水溶液中において実効的なイオン強度は抑制されていることが示された.このことをより定量的に評価することで,超濃厚電解質水溶液の本質を明らかにすることができる.高分子電解質はその指標となり得るが,他の評価方法を模索する. 4.電解質の展開:これまでに得られた結果から,LiTf2N濃厚水溶液の特異性はLi+の寄与によることが分かった.そうであるならば,Li+を共通イオンとした他の陰イオンとの塩との共融効果により,より高濃度を達成し得ることが分かっており(いわゆるbisalt),このような溶液中ではさらなるLi+-水比を達成することができる.このような条件下における,溶媒の状態を評価したい.
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