研究課題/領域番号 |
21K05116
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
東海林 敦 東京薬科大学, 薬学部, 准教授 (90459850)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | エクソソーム / 光ファイバー SPR センサー |
研究実績の概要 |
神経細胞の近傍の “その場” でエクソソームをリアルタイム計測できる微小センサーの開発を目指した。重点的に検討した、エクソソームを特異的に分子認識することのできるセンサー界面の設計について、以下にその概要をまとめた。 1)物理吸着による抗体の固定化 抗体を固定化後に、エクソソーム溶液にセンサーを浸漬させると、センサーのシグナルが増大した。センサー表面の抗体がエクソソームを分子認識したことに起因するものと考えられる。しかしながら、一旦、上昇した SPR シグナルが時間の経過とともに減少していくこととなった。物理吸着では、時間の経過とともにセンサー表面から抗体が脱離している可能性が考えられる。細胞を用いるアッセイ系では、長時間、センサーを培地に浸漬することが想定されるため、抗体の固定化法として、物理吸着は本研究においては適さないものと結論付けた。 2)化学修飾による抗体の固定化 金表面に金-チオール反応で自己組織化膜を作製した。自己組織化膜先端のアミノ基もしくはカルボキシ基などの官能基とのアミド結合により、抗体を化学結合で導入した。このように設計したセンサー界面にエクソソームを添加すると、SPR シグナルが増大した。しかしながら、自己組織化膜のセンサー(抗体未結合)においても、同様にエクソソーム添加後に、SPR シグナルの増大が見られた。非特異的にエクソソームがセンサー界面と相互作用している可能性が高いことが明らかとなった。これは、緩衝液中の塩濃度を 150 mM にすることで、非特異的な吸着は抑制できることがわかった。細胞を用いるアッセイ系では、培地のイオン強度は高く、非特異的な吸着の影響は少ないものと想定される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
解決すべき最大の課題は、生体分子のセンサーへの非特異的な吸着である。両性イオンをセンサー界面に導入することで、非特異的な吸着を抑制できることを実証している状況であることから、大きな遅れではない。しかしながら、抗体をこの界面に導入した際、選択的にエクソソームをセンサーが分子認識することは確認できていない。現在、非特異的な吸着を抑制するためのアプローチとして、センサー界面にホスホコリン基や核酸を導入するアプローチも検討しており、どのような界面設計が本申請課題のセンサーに最適であるか検討している最中である。センサーの界面設計に関して、総合的に判断すると、やや遅れてると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
エクソソームを認識するためのセンサーの界面設計を 2022 年に完了させることが目標となる。検討すべき項目を以下にまとめた。 1)非特異的な吸着を抑制するための界面設計: 両性イオンを導入することで、非特異的な吸着を抑制できることを明らかにしたが、抗体導入後のセンサーにおいて、エクソソームに対して十分にセンサーが応答するかは不明である。複数の非特異的吸着を抑制する界面設計を行い、どのような界面設計が最も適しているか判断することが重要であると考えている。そこで、非特異的な吸着を抑制できる実績のある、ホスホコリン基や核酸に導入を検討する。 2)センサー界面への抗体の導入: 非特異的な吸着を抑制できる界面に抗体を導入する。その際、シッフ塩基やアミド結合を利用した方法を検討する。エクソソーム溶液にセンサーを浸漬させることで、どのような界面設計が最も、高感度にエクソソームを計測できるか明らかにする。また、センサーの応答における塩濃度の影響を調べる。細胞から分泌される主なタンパク質を対象として、センサー応答の選択性を調べる。上述のような基礎検討を行った際、適切な界面設計の方針を決定した後、エクソソームの検量線を作成する。 3)培養液上清のセンシング: 神経細胞から分泌されるエクソソームをモニタリングする際に先立って、その基礎検討を行う。細胞を一定期間培養し、得られた培養液の上清を試料として、作製したエクソソームセンサー(光ファイバーSPRセンサー)を試料に浸漬し、SPR シグナルの変化を記録する。その際、細胞の個数が少ないと分泌されるエクソソームの量も少なく、計測が困難になる。センシングに適した細胞の個数を調べる必要がある。また、センサーを細胞から遠く離れた位置に設置すると、エクソソームが希釈され、計測が難しくなるものと予想される。細胞からどのくらい離れた距離にセンサーを設置すればよいか明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
センサーの作製に使用する予定であったが、非特異吸着を抑制できるような界面設計に勢力を注いでいる。抗体をセンサー界面に固定化する検討を次年度に実施することとしたので、翌年に使用する分として、約52,000 円ほど、未使用のままにした。
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