研究課題/領域番号 |
21K05122
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
藤田 雅弘 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 専任研究員 (50342845)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | DNA / バイオセンサー / ナノ粒子 / 小角X線散乱 |
研究実績の概要 |
DNA鎖が高密度に集積した密生相はDNA構造に応答して特異な界面現象を示す。そのような密生相で覆われたナノ粒子では、僅かな構造変化が粒子のコロイド分散安定性に大きな変化をもたらすため、われわれの視覚にはそれを系の色調変化として捉えることができる。この界面現象がDNA構造変化に伴うエントロピー斥力変化に起因するという作業仮説に基づき、本研究では新たな材料創成と詳細な構造物性解析を通して界面現象の理解を深め、バイオセンサーとして応用することを目指す。具体的には、四重鎖DNA構造に着目し、四重鎖DNAを担持したナノ粒子の界面現象の特性解析と応用を検討する。リガンドとの会合体形成による分子構造の変化とナノ粒子の分散安定性変化のメカニズムの相関を解明するとともに、バイオセンサーとしての利用とその最適化をおこなうものとする。 先ず、リガンドとしてトロンビンに着目し、そのDNAアプタマーを担持したナノ粒子に関して検討した。大型放射光施設SPring-8での溶液小角X線散乱(SAXS)などによる網羅的な解析により、トロンビンとDNAとの会合をトリガーとして粒子凝集が始まることを確認するとともに、それがDNA密生相のエントロピー効果の低減に依ることなどを実証し、成果として取りまとめた。 シスプラチン等の低分子化合物をリガンドとする系に関してもあわせて検討した。DNAナノ粒子によるセンシングへの応用に関しては既に成功しているが、ここでは、複合体形成時における四重鎖構造の変化に関する解析を精力的におこなった。円二色性分散計や溶液SAXS解析により、リガンドとの複合体形成に伴い四重鎖がアンフォールディングしていることを示唆する結果を得ることができた。従来の配列とは異なる四重鎖DNAを担持したナノ粒子も検討し、その分散安定性に関しても従来と同様の界面現象を再現良く観測できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度の取り組みでは、四重鎖DNA構造とリガンドとの複合体形成における構造・物性変化に関する基礎的な知見を得ることに重点を置いていた。 リガンドとしてトロンビンを使用した系に関しては、DNAナノ粒子に関する詳細なデータ解析を実施し、研究成果として取りまとめることができた。また、低分子化合物であるシスプラチンと四重鎖DNA構造との複合体形成に関する構造科学的知見を得ることも目指していた。試料調製や実験条件など検討段階ではあるものの、溶液SAXS法による測定ならびに非経験的構造解析を実施したところ、複合体形成時にアンフォールドしていることを強く示唆するデータを得ることができ、仮説を裏付けることができた。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の進捗状況がおおむね当初の予定通りにであったため、引き続きこれまでの研究計画に沿って課題を遂行していく。四重鎖DNAとリガンドとの複合体形成の実像にせまれるよう、実験条件の最適化を推し進める。また、センサー開発やその高感度化を目指すために、DNA配列、鎖長、固定化密度など材料設計に関わる因子、温度などの外部因子などの効果についても調査していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画はおおむね順調に進行しているが、試薬類や実験消耗品類などの費用が当初予定していたより低く抑えることができたため、残高が生じた。化学試薬・生体関連試薬、実験消耗品類の購入や実験・成果旅費に充当することにしたい。
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