研究課題/領域番号 |
21K05124
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
加藤 優 北海道大学, 地球環境科学研究院, 准教授 (70709633)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | タンパク質フィルム電気化学 / 金属酵素 / チトクロムc酸化酵素 / 人工生体膜 / ヘムタンパク質 / 脂質二分子膜 / 表面増強赤外吸収分光法 |
研究実績の概要 |
膜タンパク質は細胞膜を構成する脂質分子や他の可溶性タンパク質等と相互作用や電子移動することで,細胞膜を介したシグナル伝達やエネルギー生産といったタンパク質機能を発現することが知られている.膜タンパク質-脂質間やタンパク質-タンパク質間相互作用といった比較的弱い相互作用を膜タンパク質が機能している状態で直接観察することができれば,生体内反応の理解,医薬品やバイオセンサー開発等の促進が期待できる. 本研究では,膜タンパク質-脂質間やタンパク質-タンパク質間相互作用と酵素活性相関の理解を可能とする,人工生体膜固定化電極の構築を目指す.特に膜タンパク質の中でも生体内電子移動や酵素反応において重要であるヘムを含む膜貫通型金属酵素に着目する.2021年度では,ミトコンドリア内部で酸素を水へ還元する金属酵素であるチトクロムc酸化酵素の固定化電極を作製し,タンパク質の電極表面配向やリン脂質の種類の違いによる膜タンパク質-脂質間やタンパク質-タンパク質間相互作用,酵素活性への影響を調べた.酵素活性は電気化学測定により,人工脂質二分子膜形成やタンパク質間相互作用は表面敏感な分光手法である表面増強赤外吸収(SEIRA)分光測定により調べた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ミトコンドリア内部で酸素を水へ還元する金属酵素であるチトクロムc酸化酵素(CcO)を表面増強赤外吸収(SEIRA)活性な金電極表面に固定化した.固定化の前に金電極表面を異なる末端官能基を持つアルカンチオールの自己組織化単分子層(SAM)で修飾し,リン脂質を用いて人工脂質二分子膜を電極表面に構築した.得られた電極に対して水溶性の電子輸送タンパク質であるチトクロムc(cyt c)の吸着挙動をSEIRA分光計測によって追跡したところ,SAMのアルカンチオールの末端官能基によってcyt cの吸着挙動に違いが現れることが明らかとなった.この結果から間接的に電極表面でのCcOのタンパク質配向を決定することができた.また,用いるリン脂質の鎖長を変化させることで,得られる脂質二分子膜の密度(流動性)に違いが現れてくることも明らかとなった.これらの結果から,電極表面に構築した人工生体膜により,膜タンパク質-脂質間やタンパク質-タンパク質間相互作用の違いを理解可能であることが明らかとなった.
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は膜貫通型金属酵素と水溶性金属タンパク質を用いたが,今後は,膜貫通型金属酵素と水溶性金属酵素を用いた場合における人工生体膜の構築,膜タンパク質-脂質間やタンパク質-タンパク質間相互作用の観察,電極表面でのカスケード反応の実現を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は当初予定していた電気化学測定装置の購入ができなかったため,2022年度に購入する予定である.
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