研究課題/領域番号 |
21K05125
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
葛目 陽義 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (20445456)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 燃料電池 / 表面増強ラマン分光法 / 電気化学 / 電気化学触媒 / オペランド計測 |
研究実績の概要 |
本研究課題の研究目的は『「実用化研究の【評価指針】と【測定法】」を基礎研究の触媒素材開発に導入することで、燃料電池開発に役立つ基礎研究の知見をオペランド研究で獲得し、効率的に燃料電池の実用化を進めること』である。その為の研究実施計画として(課題1)オペランド分光計測技術を開発し、高温・多湿・強酸などの特殊環境下でも高感度分光計測を可能とする増強素子を開発すること。(課題2)得られた知見・新たなフィードバックされた知見を基に新触媒を開発すること。の二つを挙げた。 2021年度の課題研究では計画通り(課題1)について実施した。電気化学環境下で高感度分光計測を可能とするシェフ被覆ナノ粒子増強ラマン分光法(SHINERS法)に注目し、その増強素子に対して耐熱性を付加するべく、被覆シェルの素材開発を実施した。既存のシリカシェルでは200℃以上では増強素子が凝集・凝塊し計測不能となった。そこで融点の高いチタニアおよびジルコニアについて増強素子への薄膜形成技術を開発した。増強素子のシェルは厚すぎると測定感度が低下し、高感度計測が出来なくなる。そのためその厚さを2-3 nmに抑える必要があり、精密制御できる合成法を開発する必要があった。チタン錯体を用いて合成したチタニアシェル被覆増強素子では400℃以上でも安定で、かつ1 nm程度の微小素材の検出にも成功した。本成果から微小素材を触媒とした一酸化炭素酸化反応機構を解明することに成功した。ジルコニアシェル合成法もキレート錯体を経る方法により、膜厚の精密制御できる合成を確立した。 さらにオペランド分光法の確立を目指して、測定環境を再現するチャンネルフロー二重電極(CFDE)法を立ち上げ、市販触媒における酸素還元反応の挙動確認に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画書に従って予想通りの開発が進められている。オペランド分光計測法の開発では、分光法の技術開発と、発電条件下での電気化学測定法を組み合わせることで開発できる。本年度の進捗を踏まえて分光技術の中心である増強素子のシェル合成法の開発では、再現性の高い新たな合成法の確立に成功したことで、他のシェル素材への応用展開への期待が広がり、新しいオペランド計測法の汎用性・適応性の向上を目指すことができる。これは予定通り、むしろ予定以上に進んでいる。一方、オペランド計測法の発電条件下での電気化学測定法であるCFDE法の立ち上げについては、予定通りには成功したが、分光計測法を同時進行する新たなセル設計に難航しており、1年目での製作には至らなかった。現在、継続して設計・製作にあたっており、2年目前半ではセル製作に着手する予定である。 当初予定していなかった事態としては、新型コロナ蔓延防止に基づく登校制限、さらなる感染拡大の継続で、研究人員・研究時間の制限が昨年度末まで予想以上に延長されたことである。しかし、予想以上に研究進捗が進んだため、研究計画への支障は最小限に抑えられた。ただし、試薬や消耗品の物品の納品にも影響があり、今後については注視する必要がある。 以上の理由から全体として、1年目の研究進捗についてはおおむね研究実施計画書通りに進行していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の研究実施計画として挙げた2つの課題:(課題1)オペランド分光計測技術を開発し、高温・多湿・強酸などの特殊環境下でも高感度分光計測を可能とする増強素子を開発すること。(課題2)得られた知見・新たなフィードバックされた知見を基に新触媒を開発すること。について、当初の研究計画通りに推進する。 (1)(課題1)における増強素子の開発を2022年度中に終える。具体的には2つの増強素子(AuNP, Au@AgNP)と3つのシェル素材(シリカ、チタニア、ジルコニア)で構成される6つ組み合わせの内、その物性評価・耐熱性の評価を終えていないチタニアおよびジルコニアシェル被覆増強素子の確認研究を遂行し、新たにセリアについても、その合成法を検討する。 (2)(課題1)におけるオペランド分光計測法のセルの設計・製作を実施し、市販触媒を用いて酸素還元反応などで試験測定することで確認しつつ、最終的に方法論を確立する。 (3)(課題2)におえる新たな触媒開発をスタートする。具体的には水電解触媒として注目されているNi電極を用いて、固液界面での構造変化や吸着物の同定などの基礎知見を取得後、合成したNi合金系触媒のオペランド計測を行う。添加する合金組成の影響について理解することを目指す基礎知見を集積することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は2つある。(1)新型コロナウィルス感染拡大による研究期間の制限(短縮)および物品納品の遅れが生じたことで期間内での購入が出来なかった、かつ出張がすべて中止となり旅費の支出が0になったこと。(2)当初の予定になかった独立基盤形成支援を獲得したことで、大幅な研究基盤・環境の改善が実施され、当初予定していた一部の装置メンテナンス物品の購入が今年度は不要になった。 約41.8万円の持ち越し金については、超純水装置メンテナンス消耗品費(45万円)として使用する予定である。
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