研究課題/領域番号 |
21K05131
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
青木 元秀 東京薬科大学, 生命科学部, 助教 (30418917)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 細胞内共生 / 生体膜脂質 / LC-MS |
研究実績の概要 |
ミトコンドリアや葉緑体といったオルガネラを生み出した細胞内共生は、細胞の中に細胞が共生することにより新たな機能と構造を獲得する機会を生物にもたらす細胞進化の大きな原動力となっている。真核細胞の進化過程を解き明かす上で、細胞内共生がどのように成立し、維持されているのかを分子レベルで詳細に理解することが求められる。 細胞内共生研究のモデル生物であるミドリゾウリムシとクロレラの共生メカニズムの解析の先行研究から、多くの遺伝子やタンパク質群等の生体物質が、細胞内共生成立過程において細胞内で重要な役割を果たしているものと推測されている。本課題では、先端的液体クロマトグラフィタンデム質量分析法による細胞内共生研究モデル生物の脂質一斉解析(リピドミクス)技術基盤の構築に取り組んでいる。これをさらに、細胞内共生成立過程における脂質挙動解析へ応用して、生体膜脂質が細胞内共生に果たす役割およびメカニズムの解明を目指しいている。 細胞内共生成立過程で脂質が果たす役割を解明する上で、脂質プロファイルを詳細に明らかにすることは、真核細胞の進化過程を解き明かす上できわめて興味深いテーマであるが、一般に、細胞中の微量にしか存在しない脂質を含めた脂質プロファイルの全体像を一斉に測定することは容易ではなかった。当年度は、細胞内共生モデル生物ミドリゾウリムシの共生成立過程における脂質挙動解析のための要素技術の開発に取り組んだ。先ずはその根幹となる細胞の脂質プロファイリングのための液体クロマトグラフィタンデム質量分析(LC-MSMS)システムを利用した生体脂質の一斉分析法を確立するために測定条件最適化、ならびに定量性向上のための細胞前処理プロセスの最適化を図った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、脂質プロファイリングのためのLC-MSMSシステムの基本的な構成として、これまでに申請者らが動物脳細胞および微細藻類の脂質環境応答解析用に構築し利用してきたLC-MSMSリピドミクス分析システムを用いている。先行研究では、それぞれの生物試料のもつ固有脂質組成分析用にLCの分離条件、MSのイオン化・質量分析条件などが設定されているため、今年度は特に細胞内共生モデル生物用にパラメータを検討して、関連する脂質分離検出パラメータを最適化した。構築された細胞内共生研究モデル生物ミドリゾウリムシのリピドミクス解析技術は、今後実施するミドリゾウリムシとクロレラの共生成立に寄与する脂質の挙動解析と同定のための基盤技術になると期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、細胞内共生モデル生物ミドリゾウリムシの細胞の脂質プロファイリングのための液体クロマトグラフィタンデム質量分析(LC-MSMS)システムを利用した生体脂質の一斉分析法を確立した。一方で、これまでに2次元薄層クロマトグラフィ(2D-TLC)による予備的解析で、ミドリゾウリムシとクロレラの共生に伴う脂質プロファイルの変化と、未知の脂質が発現することを見出しており、このようなダイナミックな脂質組成の変化や新たな脂質の発現が、細胞内共生において共生生物が消化から免れるメカニズムに重要な役割を果たす可能性を見出した。今後、細胞内共生がどのように成立し、維持されているのかを分子レベルで詳細に理解することを目的に、構築された脂質一斉分析システムを利用して、細胞内共生過程の細胞から抽出した全脂質試料から取得されるより詳細な脂質プロファイルデータのディファレンシャル解析を実施し、共生成立に寄与する脂質の挙動を解析と同定を実施する。ディファレンシャル解析には、多変量解析ソフトウェアを用いる。さらに、従前より取り組んできた細胞分画技術を組み合わせて、共生包膜を単離し、細胞内小器官レベルの詳細な脂質プロファイリングにも挑戦したい。
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