研究課題/領域番号 |
21K05137
|
研究機関 | 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び中性子科学センター(研究開発 |
研究代表者 |
水沢 多鶴子 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び中性子科学センター(研究開発, 中性子科学センター, 研究員 (90624536)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 表面・界面分析 / 元素分析 / 中性子 / ガンマ線 |
研究実績の概要 |
本研究では中性子反射率法に全反射蛍光X線法(TXRF)の手法を応用し、中性子の鏡面反射により表面近傍の原子との核反応により生じるガンマ線を検出することで界面の元素分析を行う方法を開発する。本手法を、TXRFでは困難な深く埋もれた界面に局在する軽元素の分析に適用する。2021年度は研究用原子炉JRR-3及びJ-PARC MLFで実験セットアップの試験を行い、本手法により表面、界面近傍を選択的に分析可能であることを確認した。2022年度は遮蔽の改善等により高感度な分析が可能となる測定条件の確立を目指した。実績は下記のとおりである。 (1)JRR-3における実験:中性子反射率計SUIRENにおいて単色中性子線による鏡面反射InPウエハの表面近傍でのInからのガンマ線の信号強度の角度依存性を測定した。反応断面積が10barn以上、エネルギー1500keVまでのガンマ線を検出することに成功した。また、Si基板の下にある厚さ数マイクロメートルのIn合金層からの信号を検出することに成功した。 (2)J-PARC MLFにおける実験:BL10に実験セットアップを持込み、試料からのγ線強度の波長依存性を測定する実験を行った。シリコン基板の表面もしくは界面に作成した厚さ数マイクロメートルのIn合金薄層を分析できた。 (3)本課題を申請するための予備研究として微小な中性子ビームで表面近傍の分析を行っていた。その結果を投稿した。論文は「表面と真空」2022年9月号に掲載された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
電気料金の高騰に関連する運転時間短縮の影響により、2022年度前半にJ-PARCでの実験を行うことができなかった。マシンタイムの配分の優先度が下がり実験が保留された理由は、本手法が界面に局在する微量の軽元素の検出という課題に応えるに至っていないことである。現状では反応断面積が数1000 barnを超えるランタニドの分析だけでなく、断面積が10~数10barnの即発ガンマ線の検出ができるようになっている。だが、軽元素と中性子の反応断面積の多くは1barn以下で、本手法では未だ界面の微量成分の検出は困難である。2023年度のJ-PARCのマシンタイム申請では、界面の軽元素分析に向けてバックグラウンドの低減など測定条件の改善を行うと同時に、本手法の現在の感度を生かした分析を提案していく。
|
今後の研究の推進方策 |
現段階では、本手法で分析可能な界面の元素は、反応断面積が10barn以上、検出可能なガンマ線のエネルギーは1500keV以下である。また、分析可能な膜厚数マイクロメートル程度にとどまっている。界面に局在する数原子層の軽元素の分析は未だ困難であるが、測定条件を改善し、実現に漕ぎつける所存である。実験にあたり、マシンタイムを有効に活用するために遮蔽構造については詳細なシミュレーションを併用して、装置改良を効率化する。また、微量試料からの高エネルギーの信号を扱う即発ガンマ線分析やミュオン特性X線分析の技術を取り入れる。 装置や測定条件の改良と並行して、現行の性能を生かし、液体金属と固体の界面の分析について成果を出す。液体金属用セルを作成し、界面のぬれと構造や組成の関係解析する実験を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本課題を申請した時点ではγ線検出器を購入する予定であったが、2021年度に原子力機構が購入した同型の検出器を借用できることになったため、購入の必要がなくなった。このため、資金を遮蔽の更なる強化と新規試料の購入・作成に当てることができた。遮蔽については、検出器を含めた実験システム全体が小型であることから、遮蔽体も小型に仕上げることが可能となり結果として費用を抑えることができた。新試料については、より再現性の高い測定を目指し、より多くの条件の試料を作成するためシリコン基板を購入することにしたが、折からのシリコン不足により十分な量の基板を調達できず、試料数を限定せざるを得なかった。マシンタイムも多くなかったため結果として試料準備に停滞は生じなかった。 対応として、1年の研究期間延を申請する。延長期間内に埋もれた界面の軽元素の分析を達成する。同時に、現状の測定条件でGa-In系の液体金属と固体基板の界面の分析を行い、本手法を実証する。
|