研究課題
本研究では高難度反応のひとつである芳香族炭化水素の直接官能基化が可能となる新しい金触媒の開発を目的としている。金のクラスター化や担体との強い相互作用(SMSI)の形成で増える金表面のδ+サイトによる触媒特性の発現をねらう。ハイドロキシアパタイト(HAP)を担体とすると、他の還元性酸化物担持触媒と異なり、酸素雰囲気下で担体による金粒子の被覆、水素雰囲気下で担体層の後退が可逆的に起こる。この酸素雰囲気下で生じたSMSIにより金表面のδ+性が増大することが知られている。今回、HAPのカチオン(Ca2+をSr2+に、さらに一部CeやMgに)やアニオン(PO43-をVO43-に、OH-をF-に)を置換したHAPに金ナノ粒子を担持したAu/置換HAPでも、酸素雰囲気下でSMSIが生じ、δ+性が増大することで、アルケンの異性化の触媒活性が向上することを報告した。5回の再利用実験後もSMSI構造が維持されていることを確認した。また、オクタナールの酸化的エステル化によるオクタン酸エチルの合成においても、いずれの置換HAPでもSMSIを有する触媒の方が高い活性を示した。SMSIによる被覆層の厚さは置換HAPの種類や熱処理温度、時間によって変化した。500 °Cで空気焼成すると金表面が完全に被覆されるが、Sr置換HAPなどでは被覆層の厚さの平均は1 nmを超えなかった。一方、無置換HAPでは同じ処理を行うと、金表面を被覆しているHAP層が1 nmを超え、触媒活性が大幅に低下したことから、HAP層の厚さが触媒活性に大きく影響することが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
当初の目的通り、イオンを置換したHAPを担体とすることで、金と担体との強い相互作用(SMSI)が形成され、金表面のδ+サイトの増えた触媒により、アルケンの異性化の触媒活性が向上した。また、得られた金触媒を、香料となる脂肪族エチルエステルの合成に適用したことで、SMSIによる被覆層の厚さが触媒活性を制御する一因となることが見えてきた。しかし、金のクラスター化については、マイクロ波吸収効率の高い酸化マンガンでは未だクラスターサイズに制御出来ていない。マイクロ波吸収効率の高い金属酸化物にも適用可能な手法とするため、マイクロ波照射条件のさらなる検討が必要である。
イオンを置換したHAPを担体とすることで、金と担体との強い相互作用(SMSI)が形成され、金表面のδ+サイトの増えた触媒を調製し、液相反応に適用できた。一方、金のクラスター化による金表面のδ+サイトが増大した触媒調製の試みについては、マイクロ波照射条件の検討を引き続き行うとともに、金前駆体についても検討を行う。得られた触媒は、高難度反応への挑戦に向け、ベンゼンよりも反応性の高いトルエンを基質とするアンモ酸化などに適用する。マイクロ波照射の有無による反応性や選択性の違いを評価し、触媒の最適化を図る。
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ACS Catalysis
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