昨年度終了時での課題は、QCMで汚染分解を測定するに際して、UV光を照射すると温度以外の要因で急激な周波数変動が起こり、その理由が不明なことであった。今年度の研究で、それが水晶の光照射による結晶ひずみのためであることがわかった。これは水晶を使う限り避けられない現象であるが、UV強度が同じであれば周波数変動量は同じであることがわかったので、それを測定後に補正することで測定結果に影響を与えずに済むことが明らかとなった。もう1つはQCM上に良質の窒化物薄膜を作製するという課題であるが、ゾルゲル法、スパッター法のいずれを使っても結局うまくいかなかった。そこでQCMで測定することを断念し、分光光度計での吸光度変化によって行うこととした。市販の窒化物薄膜光触媒による有機物汚染(汚染物質としてはメチレンブルーとメチルレッド)の分解実験を行い、大気中、真空中で窒化ガリウムによる汚染分解を確認した。大気中での分解実験によって、光触媒反応における窒化ガリウムの量子効率はTiO2と同程度であることがわかった。窒化ガリウムに対して蛍光寿命測定装置を用いて時間分解PL測定を行った結果、窒化ガリウムからPL が観測された。それにも拘らずTiO2と量子効率がほぼ同じであるということは、GaNにおいては光触媒活性を低下させる電子―正孔対の非発光再結合確率が小さいことを意味する。さらに、比較のために分解実験を窒化アルミニウムでも行った。窒化アルミニウムは窒化ガリウムよりも大気中において分解が速い。しかし、窒化アルミニウムでも真空中では汚染物質の分解はほとんど起らなかった。窒化物光触媒は真空中で分解速度が著しく遅く、宇宙で利用するには実用的でないということがわかった。
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