研究課題/領域番号 |
21K05155
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研究機関 | 東京電機大学 |
研究代表者 |
保倉 明子 東京電機大学, 工学部, 教授 (20343569)
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研究分担者 |
宮崎 淳 東京電機大学, 工学部, 准教授 (50408697)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 液体電極プラズマ / 発光分光分析 |
研究実績の概要 |
現在,高周波誘導結合プラズマ(ICP)を光源とするプラズマ分光分析法は,溶液試料の微量元素分析法として広く普及している。日本産業規格 工場排水試験法方法(JISK0102)において,鉛やカドミウムなど多くの元素の公定法としてICP発光分光分析法(ICP-AES)やICP質量分析法(ICP-MS)が採用されている。一方,ハロゲン定量分析の公定法は,イオンクロマトグラフや滴定法,発色試薬を利用した吸光光度法などである。環境負荷低減の観点から,工業製品中のハロゲン量は,国内・海外において様々な法律により規制されてきており,ハロゲンの分析ニーズは高まっている。 2004年,微細流路中の溶液に高電圧をかけると,流路の狭小部でプラズマの発生することが見いだされ,このプラズマを励起源とする,液体電極プラズマ(Liquid Electrode Plasma, LEP)発光分析法が報告された。微細流路を利用するため,試料溶液量が40 μL程度と極わずかであること,ガスを必要としないプラズマであること,乾電池で作動できるため可搬性が高いことなど,従来のプラズマ分光分析にない特徴を有しており,オンサイト分析への可能性をもつ手法である。しかし,ICPと比較するとプラズマ温度が低いため,分子発光に起因するピークも共存している。分子発光スペクトルは,原子発光スペクトルと比較すると非常に複雑である。 本研究では,微細流路中の溶液に高電圧をかけて発生する液体電極プラズマ(Liquid Electrode Plasma, LEP)を利用して,ハロゲン分析法の開発を行う。溶液中でのハロゲン化物イオン(F-,Cl-,Br-,I-)と錯形成した金属錯体の分子発光スペクトルを計測し,分子発光に最適なプラズマ生成条件を明らかにする。LEPによるハロゲンの分子発光分析法を確立し,実用的なオンサイト分析法を提唱する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに以下のような知見が得られているため,おおむね順調に進展しているといえる。 石英セルに微少量の試料溶液を注入して高電圧をかけると,セルのくぼみに電界が集中して溶液温度が急上昇し,水蒸気の泡が発生する。その水蒸気の泡の表面で発生するプラズマにより,溶液中の溶存元素の発光スペクトルが得られる。LEP-AESはアルゴンガスを使わないためランニングコストが安く,また小型で持ち運びができることから現場での簡易分析への応用が期待されているが,プラズマや発光スペクトルの詳細についてはいまだ不明な点が多い。LEP-AESでは多くの元素分析が可能であるが,今年度は,特に周期表13族元素のGaとInの分析において,アルカリ金属元素(リチウム,ナトリウム,カリウム)が多量に共存する際の影響について検討を行った。GaとInはレアメタルとして産業界では重要な元素である。 LEP-AESにおけるガリウムの発光挙動を調べたところ,溶液内のアルカリ金属イオン濃度が上昇すると,417.206 nmにおけるGaの原子発光線のピーク強度の減少が見られた。このGaのピーク強度をアルカリ金属イオンが共存しない系と比較すると,Li+: 1,000 ppm共存時には約67 %、Na+: 2,700 ppm共存時には約67%、K+: 3,870 ppm共存時には約51 %減少した。また,インジウムについても同様に,多量のアルカリ金属イオンが共存すると,451.130 nmの原子発光線のピーク強度が減少した。このように,ガリウムやインジウムの発光線はアルカリ金属イオンの共存によって影響を受けることが示唆された。現在,ICP-OESにおけるイオン化干渉との比較を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,LEP装置を改良し,より高分解能の分光器を搭載する。改造した装置を用いて,ハロゲン化物イオンを含む標準溶液の分子発光スペクトル測定を行う。試料として,ハロゲン化物イオン(F-, Cl-, Br-, I-)含有溶液と,金属イオン(Al3+, Ca2+, Ga3+, In3+, Ba2+など)含有溶液を適宜混合して,測定溶液を調製する。試料溶液を入れるセルには,石英やサファイヤの小型専用セルを用いる。ここに白金電極を挿し,500~1500 Vの高電圧をパルス印加し,発生した分子発光スペクトルを計測する。スペクトル線の帰属には,NISTの分子分光データ等を参考にする。含有するハロゲンイオンや酸溶媒の違いによる発光やセル耐性の違いを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は,装置に搭載する分光器の測定波長領域および波長分解能を検討した。この結果を元に,次年度には分光器を選定し,装置改造を実施する。
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