研究課題/領域番号 |
21K05160
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
松浦 俊一 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (80443224)
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研究分担者 |
三村 直樹 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (50358115)
佐藤 修 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (20357148)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 難分解性プラスチック / ポリエチレンテレフタレート分解酵素 / ナノ空間材料 / 固定化酵素 / バイオリサイクル法 |
研究実績の概要 |
ポリエチレンテレフタレート(PET)に代表される難分解性プラスチックのリサイクル技術の進展は急務である。本研究では、PET分解酵素の集積反応場の創出を目的としており、ナノ空間材料(メソポーラスシリカ)の規則性細孔への酵素の精密配置による「飛躍的な反応速度の向上」と、疎水的なシリカ細孔表面とPETとの近接作用による「接触頻度の向上」を実現することによって、高効率かつ低環境負荷型の難分解性プラスチック分解システムを開発する。 これまでにメソポーラスシリカの規則性細孔が酵素の安定性向上場として好適であることを見出しているが、反応性の向上に向けたシリカ細孔表面での酵素の配向制御が課題であった。この課題を克服する方法として、シリカ結合タンパク質(Si-tag)を2種類のPET分解酵素に個別に融合し、Si-tagをシリカ細孔表面と酵素の間の接着分子として利用することによって酵素の配向制御を試みる。 当年度は、まず、各種のナノ空間材料(メソポーラスシリカ[細孔径:5、24nm]及びメソポーラスアルミナ[細孔径:6nm])の合成と細孔構造の解析を行った。次に、昨年度に作製した2種類のSi-tag融合PET分解酵素(PETase及びMHETase)のナノ空間材料また非多孔質シリカ材料への吸着・固定化評価を実施した。高濃度の塩および界面活性剤存在下(pH 8.0)で各種の材料とSi-tag融合PET分解酵素を混和したところ、メソポーラスアルミナ < 非多孔質シリカ < メソポーラスシリカ(細孔径:5nm) < メソポーラスシリカ(細孔径:24nm)の順に酵素の固定化量が増大した。これより、シリカや金属酸化物であるアルミナ表面へのSi-tag特異的な結合が確認され、全体としては細孔径や細孔容積の増大にともない酵素の固定化量が増大する傾向が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当年度は、昨年度に作製した2種類のSi-tag融合PET分解酵素の各種ナノ空間材料(メソポーラスシリカ、メソポーラスアルミナ)への固定化状態を評価し、Si-tag特異的な結合を可能にするためのナノ空間材料の細孔構造などの最適条件に関する知見を得た。しかし、ナノ空間材料の合成方法や固定化条件の最適化に多くの時間を要したため、当初計画していたPET分解酵素-ナノ空間材料複合体によるPET断片の分解反応の検証に進むことができなかった。 一方、これまで未検証であった、シリカ以外のナノ空間材料であるメソポーラスアルミナ(金属酸化物)へのSi-tag融合酵素の固定化評価を実施した。その結果、金属酸化物であっても高濃度の塩および界面活性剤存在下においてSi-tag特異的な結合が可能であることなど、当初の計画では予想できなかった新たな知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、当年度に実施できなかった実験項目を含め、交付申請書に記載の実施計画に沿って研究を推進する。 具体的な推進方策としては、まずは2種類のSi-tag融合PET分解酵素(PETase及びMHETase)のうち、PETaseの活性を例えば酢酸p-ニトロフェニルなどを基質とした加水分解により評価し、各種ナノ空間材料(メソポーラスシリカ、メソポーラスアルミナ等)における酵素活性を比較検討する。 最終的には、PETase及びMHETaseを同時に配置したPET分解酵素-ナノ空間材料複合体を高温高圧下での前処理によって部分分解させたPET断片の分解反応に適用し、反応速度論解析を実施する。特にカスケード酵素反応に好適な固定化条件を明らかにすることを目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)当年度の前半にプラスチック製品(マイクロチューブ、フィルター付きチップ等)や電気泳動関連製品などの購入を予定していたが、これら消耗品の中には、新型コロナウイルス感染症対策に関連し世界中での需要の高まりの影響を受け、納品に数ヶ月以上を要するものがあり、実験の遂行に大きく影響した。また、昨年度から引き続き、世界的に高純度ヘリウムガスの入手が困難な状況であったため、ガス吸着測定によるナノ空間材料の細孔構造の解析を実施することが可能になった時期が当年度の第4四半期であった。これらの影響により、当初計画で予定されていたPET分解活性評価用の反応基質や分析機器に関連した試薬・消耗品などの入手時期を次年度に変更したため、研究費の未使用分が生じた。
(使用計画)現段階では、昨年度に計画していたPET分解酵素-ナノ空間材料複合体によるPET断片の分解反応の検証が予定より遅れているため、次年度は主に、PET分解活性評価用の反応基質(酢酸p-ニトロフェニル、ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタラート、その他のPET素材)や分析機器に関連した試薬・消耗品などに研究費を充てる。また、これまでに得られた知見をまとめ、研究成果の発表(学術論文および学会発表)を行うための論文投稿費、学会登録費、国内旅費等に研究費を充当する予定である。
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