研究実績の概要 |
本研究「コロイド粒子の異形化による機能向上に関する研究」を推進するにあたり,初年度は,(i) 液晶カプセルの作製,(ii) 高分子コロイド材料の表面修飾について検討した。(i)については,oligo(ethylene glycol) methyl ether methacrylate(OEGMA)とmethyl methacrylate(MMA)との逐次的な可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合により合成した両親媒性ブロックコポリマー(PMMA20-b-POEGMA36)を用いた転相温度乳化(phase inversion temperature: PIT)法により,2,2,2-trifluoroethyl methacrylate(TFEMA),市販のフッ素系液晶化合物(JD-5037XX),およびethylene glycol dimethacrylateが溶解したMMAを油相とするoil-in-water(O/W)型エマルションモノマー油滴のミニエマルション重合を行い,液晶ナノカプセルを作製した。電子顕微鏡観察,熱重量分析,示差走査熱量測定により,油滴内でのコアセルベーションの進行に伴って,カプセル構造が自発的に形成されていることを明らかにした。また,液晶カプセルを挟んだITO電極間に電場を印加すると,可逆的に透過光強度が変化したことから,TFEMAが共重合されたカプセル壁が電場応答性の付与に重要な役割を果たしていることが示された。(ii)については,コロイド特性は表面特性に強く影響されることを考慮し,高分子ラテックス粒子上でのOEGMAの表面開始原子移動ラジカル重合(SI-ATRP)によりグラフト鎖を導入した。また,コロイド特性を詳細に評価するだけでなく,タンパク質の非特異吸着の抑制,グラフト鎖末端のアミノ化による酵素の化学的固定化を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究「コロイド粒子の異形化による機能向上」を推進するために,初年度となる2021(令和3)年度はコロイド特性を厳密に制御されたコロイド粒子として,液晶カプセルとグラフト鎖を有するコア-シェル粒子の作製に主眼を置いた実験を行った。特に,液晶化合物などの光学材料を内包するカプセル材料では,表面張力および接触角により算出される拡張係数,Hansen溶解度パラメーター(Hansen Solubility Parameters: HSPs)に基づく理論的な予測が重要であることを示すとともに,カプセル内に内包されたフッ素系液晶化合物の電場応答性の発現には,カプセル壁原料となるモノマーを適切に選択することが重要であることを明らかにした。また,高分子ラテックス粒子の表面特性の制御という観点からは,SI-ATRPによるノニオン性高分子POEGMAをグラフト鎖として導入し,タンパク質の非特異吸着の抑制に有効であることを実証した。さらに,potassium phthalimideとhydrazineを用いたGabriel合成により,POEGMAグラフト鎖の生長末端をアミノ化し,aldehyde基を有するhorseradish peroxidase(activated-HRP)の化学的固定化を行い,制御/リビングラジカル重合の特徴でもある成長末端官能基化を高分子ラテックス粒子表面にグラフトした高分子鎖でも実現した。本研究成果は,学術雑誌に掲載されただけでなく(Chem. Lett., 2021, 50, 1566-1569. Colloid Polym. Sci., 2022, 300, 319-331.),掲載が受理された論文も別にあるため,本研究は順調に進展していると判断される。
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