研究課題/領域番号 |
21K05168
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
青島 貞人 大阪大学, 大学院理学研究科, 教授 (50183728)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | リビングカチオン重合 / 構造や分子量が制御されたポリマー / 光照射による重合系の超加速 / 刺激応答性ポリマー / 選択的分解性ポリマー / 配列制御ポリマー |
研究実績の概要 |
本年度は、立体構造 / シークエンス / 分子量 (リビング性) の複数が同時に制御された重合系の開拓として、メタルフリー重合系の光照射による超加速、多様な温度応答性(かつ分解性)ポリマー合成、アルコキシフタリドを用いた選択的かつ特異的な共重合と分解、環状三量化反応を基盤とした配列制御ポリマーの合成と分解を試みた。主な結果を以下に示す(文中のI, II, IIIなどの記号は、研究計画書に基づく)。 (I-3) 当研究室では以前、ジアリールヨードニウム塩を有機ルイス酸として用いたビニルエーテル(VE)のメタルフリーリビングカチオン重合系を開発した。この重合中に光を照射すると、リビング性を保ったまま重合が数百倍加速されることを見いだしたので、この系の反応機構を考察するとともに、種々の官能基を有するVEや低カチオン重合性のスチレン類の光照射による高速制御重合を検討した。 (II-1, III-1) 刺激応答性ポリマーの合成検討として、脂肪族カルボン酸イオンを持つ種々のイミダゾリウム系イオン液体構造を側鎖に有するVEポリマーを精密合成し、水中でのLCST型相分離挙動を見いだした。また、アルデヒドとの交互共重合体の選択的分解性も検討した。 (I-2,3) 単独カチオン重合性を示さない環状ヘミアセタールエステル構造を有する3-アルコキシフタリドを用いた共重合を検討した。その結果、オキシランとの共重合やVEを加えた系でモノマーの繋がる順番が一方向に制御された三元共重合が可能になった。さらに、その選択的分解性に関しても検討した。 (III-2) VEとジアルデヒド化合物の環状三量化反応により配列組み込み型モノマーを選択的に合成し、これを用いた重付加により2種類の置換基が環状アセタール上に交互に配列したABAC型周期配列ポリ環状アセタールを合成した。またこれらの選択的分解性も検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上記に示すように、我々はこれまで新しいリビングカチオン重合系やビニル付加・開環同時カチオン共重合系を検討し、多様な機能性ポリマーの精密合成を検討してきた。本年度は特に、新しい配列制御重合系の開発、選択的分解性ポリマーの新規合成などを検討した。これらは当初の申請書の推進方策に示した通りであり、順調に進展していると思われる。 さらに当初の計画以上に進展した点としては、光照射による高速制御重合とABAC型周期配列ポリ環状アセタールの合成に関しても研究が進んだことである。前者は、以前当研究室で見いだされたメタルフリー重合系の検討中に見いだされた光照射による超高速化に基づいたものであり、単に現象の発見だけで無く反応機構の検討や他の低反応モノマーの高速重合にも繋がっている。後者の系は、元々当研究室でのVEとアルデヒドのカチオン交互共重合において、副反応として見いだされた環状三量化反応を基盤としたもので、特異な主鎖構造を有するポリマーの新規合成法が構築されただけでなく、選択的な分解が可能な配列制御ポリマーが合成されている。これらはまだ詳細な検討が必要ではあるが、新たな高分子合成法になる可能性を秘めている。
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今後の研究の推進方策 |
テーマごとに今後の推進方策を示す。 ・テーマ I (緻密な構造制御が可能な重合法の探索):以前の検討でスチレン類としてp-アルキルスチレンとベンズアルデヒドとのカチオン共重合に関して交互共重合が進行し、酸によって低分子まで分解が可能な分解性ポリスチレン類が合成された。そこで範囲を広げるために多数のスチレン類を予備検討したが、ほとんどの場合単独ポリマー、オリゴマー、環状三量体が生成するだけであった。一方、インデンに関しては、そのかさ高い構造から環状三量体が生成せずに共重合体が得られる可能性があった。そこで条件を探索し、共重合できれば交互共重合に近い系を目指す。また、トリフルオロ酢酸との反応により分子量数百まで選択的に分解させたい。 ・テーマ II(構造や機能が設計された刺激応答性ポリマーの創成):新しい刺激応答や相互作用の探索として、イミダゾリウム型イオン液体型側鎖を有するポリマーを種々の脂肪族カルボン酸と錯形成させることにより相分離が可能になった。一方、芳香族カルボン酸アニオンを用いるとそのπ-πスタッキングなどによりそれらとは異なる応答の可能性が考えられる。また、多分岐型ポリマーも合成して、その形特有の刺激応答挙動を検討する。 ・テーマ III (選択的で多様なポリマー切断・分解法の確立):種々の VE や環状アセタールを用いて選択的切断/分解する最適条件を探索し新設計を進める。例えば、酵素によるタンパク質の分解機構から着想を得た、分解性高分子のリビングカチオン重合による精密合成を行い、選択的で多様なポリマー切断・分解法を探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
テーマに沿って研究を実施した上で若干の未使用額が生じたが、無理に使用する必要が無かったため、翌年度に使用することにした。使用計画としては、上記の研究計画に従って行う。
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