研究課題/領域番号 |
21K05176
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研究機関 | 公益財団法人豊田理化学研究所 |
研究代表者 |
松下 裕秀 公益財団法人豊田理化学研究所, フェロー事業部門, フェロー (60157302)
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研究分担者 |
鈴木 次郎 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 計算科学センター, 准教授 (40415047)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ブロック共重合体 / モルフォロジー / アルキメデスタイリング / 12回対称準結晶 |
研究実績の概要 |
ブロック・グラフト共重合体が凝集系で示す多彩なモルフォロジーのうち、メジャー成分が占めるマトリックス中でマイナー成分が作る二次元・三次元周期構造が研究対象である。特に本研究では、マトリックス中に3種の異なるドメインを配置させる構造を実現するため、4成分5元共重合体を設計・調製して新規タイリング構造の構築を目指した。具体的にはAS1IS2P(A:poly4-vinylbenzyldimethylamine), S1, S2:polystyrene, I:polyisoprene, P:poly(2-vinylpyridine)型の5元共重合体を対象とし、S マトリックス中のA, I, P ドメインの配置状態を各成分の組成比を変える手法で制御した。試料の溶媒キャストフィルムの構造を透過型電子顕微鏡とX線小角散乱法を併用して観察した。両端鎖A, P 成分の長さが等しい場合、S1/S2 比が0.56 の時には6回対称の周期構造が、1.93 の時には4回対称構造が現れたが、中間の0.93 の時には、周期構造としての33434 アルキメデスタイリング(AT) 構造に加え、5配位と6配位が混在した準周期構造が優勢に表れた。試料の分子量が約15万と大きいため、ここで得られた準周期構造のタイル辺の長さは約60nmである。また、モンテカルロシミュレーションによりAB1CB2D 5元ブロック共重合体の二様ブレンドから5配位を基調とする新規タイリング構造を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該研究では、Sマトリックス中にP, I, A ドメインを親-子―孫の関係で配置させることで、未発見の(3.12.12)AT, (4.4.4.4.6)AT 周期構造を構築することが当初の目的である。先行研究では、両端鎖A, P に大きな偏りを持たせる分子設計をし、(3.10.10/3.10.3.10) 複合規則タイリングや、Pドメインを二重に I ドメインが取り巻き、しかも鏡像関係にある2種の(4.4.4.4.6) 近似構造の構築に成功した。本年度は、両端鎖A, Pの分率を下げ、マトリックス成分の比率を上げた試料を調製して構造観察を行った。二つのSブロックの比、S1/S2 が0.56 及び1.94の場合には、Pに対してI, A が各々6配位、4配位する周期構造を得た。また、比がこれらの中間の0.93 の時には、配位数が5 であり、仮想3角/4 角タイリングの比が2である3.3.4.3.4AT 構造に加え、配位数5と6 が混在した結果、3角/4 角タイリング比が約2.3となる非周期構造が得られ、X線回折実験から12 回対称性を持つ準結晶構造であることが証明された。概要で述べたように、基本タイルの辺長が約60nm と非常に大きく、他の物質を含めても最大級の12回対称準結晶構造が単独分子から得られた意義は大きい。周期構造に関してはまだ探求の必要があるが、当初の計画を超えて得られた成果と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように、4成分5元共重合体では、複雑周期構造に加えて、成分の組成を大きく変えると準周期構造も得られる事がこれまでに確認できている。これらの状況から未発見の(3.12.12)AT, (4.4.4.4.6)AT 周期構造構築のためには、周期構造を示す試料の組成をわずかに変えることが効果的と考えられる。そこで2022年度は、5元共重合体に分子量が小さなホモポリマーを少量混ぜ込んで組成を微調整する手法で、複雑周期タイリングの構築を目指す。また、別のS1IS2P 3成分4元共重合体に関する実験からも、マトリックス中に組成比の異なるP, I ドメインを配置させることでPに対するI の配位数が変化してゆくことも確認できているので、4元共重合体同士のブレンドなどから新しいタイリングを生み出す道も検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
対称性の高い周期的なタイリング構造の構築を目指して研究を展開した。研究を進めるうち研究実施状況報告書に記したように、5配位構造に加え研究計画時には予想できなかった5配位/6配位が混在する準結晶タイリング構造を発見するという大きな成果を得た。この成果の発表を国内外の学会で予定していたが、新型コロナウィルス感染症感染拡大防止のために、ほぼすべての会合が中止・延期あるいはリモート開催となった。また、元来の目的である周期構造構築の研究を発展させるためには、元来ならば研究分担者との対面の議論が有効であるが、それもリモート会議の形で行うことを余儀なくされた。これらのため実質的な出張の機会がなく、出張旅費などは当初の予定を大幅に下回ったことが、次年度使用額が生じた主要因である。
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