研究課題/領域番号 |
21K05180
|
研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
藤森 厚裕 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (00361270)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | polyguanamine / metal collection / selectivity / interfacial monolayers |
研究実績の概要 |
リンカー部位の化学構造が異なる6種類の含環状部位ポリグアナミン誘導体を用いて,その界面組織化膜形成と,金属イオンの捕集,および脱離能評価,加えて金属イオン捕集の選択性を検討した.今回使用した6種類のポリグアナミンは,環状部位に直結したリンカーユニットが,芳香環リンカーのものが3種,脂肪族リンカーが3種あり,其々柔軟性や嵩張りの度合いが異なる.これらを有機溶媒に溶解させ,超純水上に展開するとLangmuir単分子膜を得ることが出来る.展開直後には環状部位は水面に接しており,圧縮に伴って環状部位が立ち上がる.この時,リンカー部位の化学構造の差異が,二次元的な分子の充填に影響を及ぼす.ここで,下相水中に金属イオンを導入すると,ポリグアナミン環状部位への金属捕集を実現した.Na+,Cd2+,Ba2+,Pd2+, Nd3+を其々含む下相水上に調製された6種類のポリグアナミン誘導体は,Na+以外の全ての金属イオンを,捕集することが可能であった.これは固体基板上に転写された多層膜に対するX線光電子分光(XPS)の結果から判明した.環状部位の構造は,フェニル環とトリアジン環が2つずつ交互に-NH2-基でつながれた状態であり,環内部には豊富な非共有電子対による陰電場が形成されている.ここにカチオンが弱い相互作用で取り込まれていると考えられる.これは1987年のノーベル化学賞であるクラウンエーテル/18-crown-6と同様の起源である.従って,捕集された金属イオンは比較的弱い相互作用で脱離回収が可能であると考えられる.このことから,金属を捕集した分子膜に対する超音波処理を行い,その後に再度XPSを測定して金属イオンの脱離を確認した.脱離の傾向は二価の金属イオンの方が容易に生じ,更にイオン半径の大きさとも連動が確認され,選択性が生じていることが明らかになった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ポリグアナミン誘導体による金属捕集の特性が明瞭に確認され,一価の金属イオンであるNa+以外は,今回使用した二価,三価の金属イオンがすべて捕集されることが判明した.また,金属イオン捕集前後に於いて膜分子の配列が系統的に変化する様子が,薄膜X線回折,並びに偏光IR測定によって明らかになった.特に,金属捕集後の環状部位が平面構造を保つのではなく,カップ状配座を形成することは大きな発見であった.今後このカップ状配座の配向角の変化と金属捕集の関係解明が,捕集特性制御の鍵となると思われる.また,比較的弱い物理操作である超音波処理が,ポリグアナミン多層膜中の金属イオンを効率的に脱離させる挙動が判明した.そこで,捕集金属イオン種を有害金属であるCd,レアメタルであるPd,そしてレアアースであるNdと,捕集や脱離回収意義のある資源に固定し,検討を深める取り組みを志向することが出来た.結果として,Cd2+は最も脱離が容易であり,イオン半径が小さいPd2+は脱離の時間が相対的に長くなった.また,Nd3+は完全に脱離回収を行うことが極めて困難であった.即ち,環内部の陰電場に取り込まれた金属イオンは陽性荷電の傾向が高いほど,脱離が困難であり,またイオン半径が小さいものほど,環内部に深く入り込み,脱離に時間がかかることが分かった.これは,偏光IR測定による環状部位のカップ状配座の傾き角の変化から,その証拠が得られた.以上のように,金属捕集の選択性や脱離挙動の変化を,価数やイオン半径の観点から差別化でき,ポリグアナミン環状部位のカップ角の定量評価と結び付けられたことから,おおむね順調な研究進行に至った1年の成果であると結論付けた.
|
今後の研究の推進方策 |
含環状部位ポリグアナミン誘導体の気/水界面場での組織化は,超分子的な相互作用によるものである.即ち多重化された水素結合の影響が非常に大きい.金属イオンの捕集が,分子配座の影響であることが判明し,圧縮による配列化に伴ってその充填様式を変化させることも分かったため,更に構造化学的なアプローチも必要であることが考えられる.次年度は,リンカー部位を6種類に置換したことをさらに生かして,組織化膜形成前後に於ける水素結合形成の効果と分子配列の影響,あるいは分子運動による水素結合断裂の影響などを明確化する.一方で,金属捕集の可否に対する選択性の他に,捕集可能な金属同士の捕集選択性の解明も必須であると考える.即ち,Cd2+, Pd2+, Nd3+など,価数もイオン半径も異なるイオンを共に2種類か3種類同時に下相水中に含ませた場合,捕集の選択性にはどのような効果が表れるのかを判定したい.例えば常に価数が大きいイオンのみしか捕集できないのか,或いはイオン半径が小さいものの捕集が常に選択されるのか・・・という傾向から,同時に2つ,もしくは3つの金属イオンが捕集される可能性も含めて検討を重ねる.この際には,特にXPSによる金属の検出と,偏光IRによる環状部位のカップ状配座に於ける配向角について,比較検討しながら精査を行う.また,脱離挙動に於いてみられる選択性と,捕集挙動に於ける選択性の相関についても合わせて議論を行いたいと考える.この結果,日本の南鳥島近郊に眠る世界需要数百年分のレアメタルの効率的回収など,人類に有効な材料として,ポリグアナミンの組織化膜を提案していきたいと考える.加えて,今年度は殆ど精査できなかった膜表面の形態学的な評価も検討課題に加える予定である.
|