研究課題/領域番号 |
21K05184
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
登阪 雅聡 京都大学, 化学研究所, 准教授 (10273509)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | シミュレーション / 動的粘弾性 / エマルジョン重合 / 表面力測定 |
研究実績の概要 |
分子形態を明確化するためのシミュレーションを行う際、全原子モデルでは用いるソフトの能力を超えてしまう。そこで着目点を変更し、単純化したモデルによって多分岐高分子の形成過程をシミュレーションするソフトを開発することで、統計的な構造分布の解析を行った。このシミュレーションは、分岐度や分子量を変えた多分岐高分子の分散度や重合速度を良く再現した。加えて、個々の多分岐高分子についても分子量と分岐数に関する統計的な傾向を解析することで、設計通りの構造に近い生成物が得られている事が示された。また、フェニル基を有する分岐剤を新たに合成し、それを用いた多分岐高分子について、フェニル基を分岐点のプローブとしたNMR解析を行ったところ、設計通りに分岐点の導入されていることが示唆された。さらに、分岐構造を変えた種々の試料について動的粘弾性測定を行い、分岐構造に由来する粘度の系統的な低下が確認された。このように、異なる方法で分子形態に関する情報を得ることが出来た。 合成法についても、効率化を検討した。均一系では重合後期に系の粘度が増大するため、ブロック共重合の際には試料を再溶解する必要がある。そこで、系の粘度が低く保たれるエマルジョン重合を多分岐高分子に適用することで、本研究で用いるブロック共重合体の効率的合成を可能とした。 基板表面の凝集状態に関しては、多分岐高分子溶液を微小ギャップ間に配置した表面力測定により解析した。対向する基板が近接すると、分子レベルの接触で応力が急上昇する距離がある(ハードウォール距離)。この距離は溶液に直鎖高分子を溶解することで大きくなるが、多分岐高分子を溶解した場合にはその二倍程度に大きくなるという結果が得られた。この結果は、多分岐高分子が「境界接触」と呼ばれる状態での摩擦低減に、非常に有効であることを示す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、①溶液中に分散した単分子形態の明確化、②種々の多分岐高分子について、溶液中の凝集状態を解析、③基板表面の凝集状態を解析、の3項目を実施し、その結果に基づいて多分岐高分子の構造パラメータが凝集構造に与える影響を定量的に解析することが、当初に計画した実施内容である。本年度の研究によって、単分子の構造はほぼ設計通りのものとなっており、動的粘弾性などの物性もその構造から予想されるものと整合することが示された。溶液中の凝集構造については、既に前年度の研究において検討済みである。両親媒性の多分岐高分子について、モノマーの疎水/親水比だけでなく分岐の程度によっても会合数やパッキングパラメータを制御可能であることが示された。また、基板表面では多分岐高分子がスペーサーのような作用を呈し、ハードウォール距離を増大させる事が示された。 このように、本研究では当初予定した項目について、概ね順調に研究が進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究によって、分子の形態、および溶液中での凝集状態については、多分岐高分子の構造パラメータとの関係が明確になってきた。これらについては、今後も更にデータを蓄積する。粘度制御、界面構造の改質、分散性の向上などを視野に入れながら、今後は構造パラメータと物性との相関について研究を拡充し、分子構造にフィードバックしていく予定である。一例として、多数存在する末端に機能を導入し、溶液粘度や境界潤滑領域での摩擦低減にどの様な効果があるかを検討する。機能導入の方法としては、最末端への官能基導入、あるいはブロック共重合などの手法を用いる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度に引き続き、COVID-19のパンデミックにより、出張を見込んでいた学会の一部がオンライン開催となった。現地開催された学会については他の予算を旅費に充てたため、本研究費での旅費は支出されなかった。 また、試薬や消耗品は既存のものを節約しながら大切に使ったため、本年度の支出は予定よりも抑えられた。 次年度は当初の計画に倣って、試薬、消耗品および成果発表のための学会参加登録および旅費などに支出する予定。
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