本研究で用いる手法は、分岐構造を制御しながら多分岐ポリマー(HBP)を一段階で合成できる点が特徴であるが、構造にはある程度の分布が存在する。そこで、HBPの形成過程をシミュレーションして、分岐度や分子量を変えたHBPの分散度や重合速度を良く再現するソフトを開発した。個々の多分岐高分子について分子量と分岐数に関する統計的な傾向を解析することで、設計通りの構造に近い生成物が得られている事が示された。 1分子あたりの分岐数を揃えながら分岐点間の長さを変えた一連のHBPについて動的粘弾性測定を行った結果、いずれの試料も直鎖ポリマーより低い粘度であり、かつ、分岐数が多い試料ほど低粘度となることが示された。さらに、固有粘度の値をHBPの最長末端間距離に対してプロットすると、マスターカーブの得られることが明らかとなった。 基板表面の凝集状態に関しては、多分岐高分子溶液を微小ギャップ間に配置した表面力測定により解析した。対向する基板が分子レベルで近接する際、応力が急上昇する「ハードウォール距離」は、HBPが直鎖ポリマーの二倍程度という結果が得られ、摩擦低減に有効であると示された。 制御されたHBP構造を有するブロックコポリマーは、二つの手法で作られた。溶媒誘起自己組織化法(PISA) を用いて、直鎖の親水性ポリマーから、分岐構造を制御した疎水性ポリマーを成長させ、得られたミセルの形態変化から、分岐構造も凝集構造の形態制御に用いることが出来ると、初めて実験的に示された。また、均一系で疎水性のモノマーを用いてHBPを合成し、その先端に水酸基を付与した試料も合成した。この試料について温度を変えた動的粘弾性測定を行ったところ、時間温度換算則を用いた重ね合わせの出来ない事が明らかとなった。これは、分子末端の水酸基による分子間相互作用の強さが温度に依存している事を意味している。
|