本研究は、枝鎖末端に反応性官能基を有するアルボレッセントポリマーの合成法の確立と、基板へのアルボレッセントポリマー固定化技術の確立、アルボレッセントポリマー固定表面の特性解析を行うもので、2023年度は、これまでに合成法を確立している、多官能アニオン性マクロイニシエーターを用いた腕鎖末端にヒドロシリル基を有する多分岐高分子について、櫛型およびアルボレッセント型に拡張し、種々の分岐鎖構造を持つ多分岐高分子を合成した。さらにビニル基を表面に導入したシリコン基板に対して、ヒドロシリル化反応を用いて、これらの特殊構造高分子の固定化を行った。得られた基盤表面はAFM観察により表面構造の解析を行ったほか、水接触角およびテトラデカンの接触角を測定することにより、特殊構造高分子固定化基板の表面特性を調べた。その結果、特殊構造高分子を固定化した基板表面は、AFM観察により、固定化する高分子の分岐世代が大きくなるに従って凹凸が大きくなることが明らかになった。これはアルボレッセント型高分子の分岐世代が大きくなることで、高分子一分子の腕鎖が、より三次元的に広がっていることと矛盾しない結果であった。表面修飾により得られた基板のテトラデカンを用いた接触角測定では、表面に固定化された高分子に基づく基板の親油性が確認されたが、アルボレッセント型高分子の三次元構造に由来する表面特性の大きな違いは観察されなかった。一方、基板の水接触角測定を行ったところ、アルボレッセント型高分子の分岐世代が大きくなるに従って水接触角が大きくなった。これは、基板表面に導入されたアルボレッセント型高分子の三次元構造による効果だと考えられ、分子の三次元構造制御が基板の表面特性の制御に有効であることが明らかになった。
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