研究課題/領域番号 |
21K05187
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
湯井 敏文 宮崎大学, 工学部, 教授 (50230610)
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研究分担者 |
宇都 卓也 宮崎大学, 工学部, 准教授 (60749084)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | キラル分離 / 多糖誘導体 / 分子シミュレーション / 操舵分子動力学報 / 分子力学パラメータ |
研究実績の概要 |
光学異性体または鏡像異性体は、立体構造が互いに鏡に投影した関係にある対となる分子のことで、光学異性体の関係にある分子は、化学的、物理的に同じ性質を示す。生体が光学異性体に対してのみ識別する高い識別能を持つことから、キラル(光学異性体を持つ)な医薬品の開発・合成・製造過程において生理活性を示す一方の光学異性体の分離が大変重要である。この分離を行う装置の部材であるセルロース誘導体キラル充填剤は岡本佳男によって開発され、(株)ダイセルによって、今日、世界のトップシェアを占める種々の多糖誘導体キラル充填剤が商品化された。セルロースを含めた多糖類は、一般に、立体規則性高分子に相当し、自己組織化により溶液中ではロッド状形態、固体構造中では規則性らせん構造を形成する。らせんから外側に突き出したかさ高い 置換基がらせん認識場として機能すると推測される。本申請研究は、多糖類誘導体が示す光学異性体分離現象を分子論的に解明するために、コンピュータ上で分子挙動を再現し、それらの性質を明らかにする分子シミュレーション手段を適用する。安定したキラル分離が再現される計算手段を確立し、種々のキラル分子と既存の多糖誘導体充填剤のシミュレーションモデル系へ解析対象を拡げ、それらに共通する分離機構モデルを提案する。本研究の将来展望として、シミュレーションが提供するキラル分離の分子描像や熱力学量等の体系的な計算結果と蓄積された膨大な分離実験データに対してデータ 駆動型解析を適用し、キラル分子のin silico絶対構造予測や新規多糖誘導体充填剤の分子・材料設計の可能性を探ることを目標とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1対の光学異性体分子は、定義に従ってR体とS体に分類される。研究期間の2年目となる2022年度において、当初の計画に従ってシミュレーション条件の探索により安定かつ完全なピーク分離が得られるシミュレーション手段の確立を目指した。キラルセレクター多糖として、当初のcellulose tris(4-methylbenzoate)(CTMB)とcellulose tris(3,5-dimethylphenyl carbamate)(CTDPC)に加え、同様に市販キラル充填剤として利用されているamylose tri(3,5-dimethylphenylcarbamate) (ADMPC)もシミュレーション対象とした。多くの計算において、特定の順序でR体とS体のピークが現れたが、シミュレーション時間(分離時間)の増加に伴いピーク間の距離は増大したが、同時にピーク幅も拡大し、ピーク分離が得られなかった。この結果をふまえ、同計算手段をキラル分離挙動の予測から、新規多糖誘導体充填剤の分子・材料設計を主たる目標へと修正した。さらに、4種のモデルキラル分子を設定し、少ないシミュレーション計算時間で効率的にピーク分離結果が得られる計算条件を選択し、それらをもとにシミュレーション手続きの定型化、シミュレーションプロトコールを確立した。実際のキラル分離実験において高い分離能を示した4種のピラゾール化合物群の分子力場パラメータを開発し、確立した分離シミュレーションプロコールに適用した。その結果、ピラゾール化合物に対して期待した分離挙動が得られなった。これは、従来のモデルキラル分子と比較して、ピラゾール化合物の分子量が大きく、キラルセレクターモデルが適切でなかったと推定された。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる2023年において、これまでの研究成果を整理し、以下の2点関する論文を発表する。 1)分離シミュレーションプロトコールを適用したモデルキラル化合物群の分離シミュレーション結果に関する報告。 2)キラルセレクターモデルデザインの変更を行い、ピラゾール化合物群の有意な分離結果を得る。予測された分離モードと既存データとの比較に関する報告。 シミュレーションデータを用いた機械学習による解析に従事している企業研究者との共同研究へ移行する。共同研究者からの助言をもとに、分離シミュレーションのシミュレーションパラメータを変更し、体系的な分離データを蓄積する。これを機会学習に供し、分離挙動に影響するパラメータを選択し、予測分離モードの改善やキラルセレクター設計ツールとしての展開を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費を旅費、そのtに振り分けた際に生じた。特に、臨時の支出となるその他の費目について、厳密な計画に基づいた使途ができなかったため。
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