研究課題/領域番号 |
21K05193
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
平原 実留 埼玉大学, 研究機構, 専門技術員 (30789293)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 高分子電解質膜 / ブロック共重合体 / プロトン伝導 / 高次構造 / 電子線トモグラフィー / 燃料電池 |
研究実績の概要 |
ブロック共重合型電解質膜が形成する高次構造及びプロトン伝導経路の視覚的解明を目的として、当初の研究計画の通り、本年度は三次元観察試料作製、及び透過型電子顕微鏡(TEM)法を駆使したナノスケール三次元観察の技術を確立した。 重合度比を系統的に変化させたブロック共重合型電解質膜(S-6X、膜厚40~70 μm)を合成し、凍結ミクロトーム法による超薄切片の作製、及び鉛イオン交換法による試料の電子染色を行った。試料片を載せた支持膜上に金粒子(粒子径5 nm)の分散水溶液を滴下し、これを三次元観察試料として連続傾斜TEM観察を行った。金粒子を追跡用基準マーカーとして連続傾斜像の位置及び軸補正を行い、CT再構成によりS-6Xの三次元立体像を再構築した。 種々の条件検討の結果、超薄切片の膜厚が70~80 nm、画像当りの補正用金粒子数が15~20個、電子線に対する最大試料傾斜角度が±60°以上、傾斜角度刻みが1~2°の条件において十分な空間分解能及び像質を有する三次元像の再構築に成功した。電子線トモグラフィー法は長時間の電子線照射による試料破壊が重要な課題となり、特に軽元素から成る有機材料ほど損傷は著しい。そこで電子線照射損傷低減システムの連続傾斜観察への応用、並びに傾斜像1枚当りの電子線照射量を最適化することで、S-6Xの構造劣化を極力低減しながら100枚以上となる傾斜像の撮影が可能となった。 本研究で確立した三次元観察技術は、これまで知見の少なかった有機材料の直接三次元解析を可能とするものであり、様々なソフトマテリアルへの応用可能性を示している。また、ナノスケール分解能を有することから燃料電池電極等に用いる触媒微粒子解析にも応用可能であり、膜電極接合体等の複合材料評価への応用が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画の通り、ブロック共重合型電解質膜を研究対象として三次元観察試料を作製し、電子線トモグラフィー法により膜内部の高次構造を三次元立体像として得ることが出来た。連続傾斜TEM観察条件及びCT再構成条件を検討することで、試料の電子線損傷を極力抑制しながらナノスケール分解能を有する三次元像の取得が可能となり、電解質膜のナノ三次元観察のための技術確立を達成した。 本研究で得られた技術・知見は、当初予定していた電解質材料だけでなく、燃料電池電極等に用いる触媒微粒子解析への応用可能性を見出すことが出来た。そこで、電極触媒材料のナノスケール構造解析にも着手し、成果を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に従い、「①親水部構造のナノスケール三次元観察」、「②水を収着した高分子電解質膜の直接観察」の2点を柱として今後の研究を推進する。 本年度は計画通りナノスケール三次元観察の技術確立を達成出来たため、今後はコンピューター上で再構築した三次元立体像から親水部と疎水部が形成する立体構造情報をそれぞれ抽出し、構造情報の解析を進める。次に、クライオ電子顕微鏡技術を駆使して含水した凍結試料片の直接観察を行う。急速凍結法による非晶質氷包埋試料の作製、次いで液体窒素温度条件における含水試料のTEM/STEM観察手法の探索に着手する。 得られた知見をもとに、本材料のプロトン伝導性評価、散乱系内部構造解析(SAXS)、表面構造解析(AFM)を併せて進めることで、プロトン伝導経路解明のための構造情報を多角的に収集する。また、触媒微粒子のナノ構造解析も引き続き推進し、新たな複合材料評価技術の確立を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染拡大に伴う出張制限等の対応により、本年度に予定されていた透過型電子顕微鏡装置のメーカーメンテナンスの時期が変更されることとなった。このため想定していたマシンタイムに変更が生じたこと、並びにコロナ対応により学会等出張件数を減らしたことにより一部繰越金が生じた。繰越金は次年度以降の装置利用料金、実験消耗品の購入、成果発表旅費等に活用する計画である。
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