研究実績の概要 |
最終年度は,近紫外光に対して比較的安定なn-ヘキサンを溶媒として用いた。HALSとしてセバシン酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)(SBTM)を用いたとき,NO-ラジカルの生成速度は,ピペリジル基のNに導入された置換基の種類に強く依存し,R = -CH3 < -H < -O(CH2)7CH3 の順で増加した。 HALSの光酸化におけるESR信号変化は,NO-ラジカルの生成とその光分解の2つの相反する反応が同時に起こっている結果と考えられる。そこで、まず、NO-ラジカルの光分解について,2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシル(TEMPO)をNO-ラジカルのモデル分子として用い,速度論的解析を行った。ESR信号は,濃度に関係なく一次反応則に従って減衰し,本実験条件下での速度定数として,0.027 /minを評価した。さらに,SBTMの光酸化反応に及ぼす溶存酸素の影響は小さいことから,NO-ラジカルの光分解反応がTEMPOと同じ機構で進行すると仮定してSBTM の光酸化(HALSの覚醒反応)をNO-ラジカルの逐次一次反応として速度論的解析を行った。SBTMの光酸化によるNO-ラジカル生成の速度定数の相対値として,本実験条件下において,-CH3:-H:-O(CH2)7CH3 =1 : 6 : 22と評価することができた。R = -O(CH2)7CH3 は,DenisovサイクルのNO-ラジカル再生反応の活性種でもあり,NO-ラジカル再生反応は,ピペリジル基(R = H,CH3)を有する一般的なHALSの光酸化反応よりも速いことが示唆される。 n-ヘキサン中のSBTMの光酸化において溶存酸素の影響が小さいという結果は,HALSの光酸化では酸素が必要とされる従来の報告と矛盾するものであり,今後,詳細に検討する必要がある。
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