研究課題/領域番号 |
21K05202
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
河村 暁文 関西大学, 化学生命工学部, 准教授 (50612579)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | スマートナノカプセル / 温度応答性ナノカプセル / ブロックコポリマー / ドラッグデリバリーシステム / 下限臨界溶液温度 / 上限臨界溶液温度 |
研究実績の概要 |
本研究では,下限臨界溶液温度(LCST)型の温度応答挙動を示すポリマーと上限臨界溶液温度(UCST)型の温度応答挙動を示すポリマーを構造に組み込んだ水に溶解する乳化剤を合成し,これを用いて油中水分散型(W/O)エマルションを形成させた後,その界面架橋により温度に応答するナノカプセルの調製を試みている。本年度の研究実績を以下にまとめる。 【低温透過型ナノカプセル】温度とナノカプセルの粒径との相関を動的光散乱測定により評価したところ,ナノカプセルを形成している側鎖PEGポリマーの相転移温度である37℃付近から粒径の増大が確認された。これは,温度上昇にともなうナノカプセル分散液の濁度の上昇とよい相関を示した。これらの結果から,温度上昇に伴ってカプセル膜が疎水化し,疎水性相互作用によりカプセルの凝集が生じることがわかった。 【高温透過型ナノカプセル】UCST型の相転移を示すポリマーを得るために,側鎖にアンモニウム塩と硫酸基とを有するメタクリレート(SaB)の可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合による合成を検討した。ポリマーを合成する際の連鎖移動剤の影響を検討したところ,ドデシル基を有するトリチオカーボネート型の連鎖移動剤を用いて合成したポリマーは,ジチオベンゾエート型の連鎖移動剤を用いて合成したものと比較して温度応答挙動のヒステリシスが非常に大きいことがわかった。したがって,ポリマー末端のRAFT剤の構造が温度応答挙動に大きな影響を与えることがわかった。この結果から,高温透過型ナノカプセルを調製するためには,ジチオベンゾエート型の連鎖移動剤を用いることが好ましいことがわかった。また,側鎖PEGメタクリレートとSaBとのブロック共重合体を合成して,これを用いてW/Oエマルションを経由してナノカプセルを形成できることも見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
LCST型の温度応答性高分子を利用した低温透過型ナノカプセルについては,ナノカプセルが温度に応答して疎水化して凝集することを見出しており,薬物内封とその放出制御について検討を進める段階まで到達できた。また,UCST型の温度応答性高分子を利用した高温透過型のナノカプセルについては,エマルションを経由したナノカプセル形成まで到達できた。いずれのシステムもナノカプセル調製はクリアでき,薬物透過を検討する段階に達しているため,順調に研究が進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
基本的に,当初の計画通りに研究を進める。低温透過型および高温透過型ナノカプセルへのモデル薬物の封入とその放出挙動について検討を進めていく。モデル薬物としては,蛍光修飾したデキストランなどの高分子量体のものと,低分子の蛍光色素担体を検討する。さらに低温透過型と高温透過型ナノカプセルの構造を融合した,一定の温度領域でのみ物質透過を可能にするウィンドウ型物質透過型ナノカプセルを調製し,ウィンドウ型薬物透過について検討をすすめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症のために,2022年度上半期は学会がオンライン開催のものが多かったのに加えて,海外でのオンサイトでの国際学会の参加を見合わせていたために,当初予定より旅費の支出が少なかった。2023年度には,国際学会での発表を積極的に実施していく。
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