本研究では,下限臨界溶液温度(LCST)型の温度応答挙動を示すポリマーと上限臨界溶液温度(UCST)型の温度応答挙動を示すポリマーを組み込んだ水溶性乳化剤を合成し,これを用いて油中水分散型(W/O)エマルションを形成させた後,その界面架橋により温度に応答するナノカプセルの調製を試みた。 【低温透過型ナノカプセル】双性イオンポリマーブロックとしてポリ(メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)(PMPC)およびLCST型の温度応答性を示すポリ(オリゴエチレングリコールメタクリレート)(POEGMA)とからなるブロック共重合体を可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合により合成した。このブロック共重合体は水/クロロホルム2相系においてW/Oエマルションを形成するとともに,ジビニルスルホンによる架橋によりナノカプセルが得られた。得られたナノカプセル分散液は昇温に伴って白濁し,温度応答性を示すことがわかった。一方,モデル薬物のカプセルへの封入を試みたが,LCST以上での封入が要求されるため,体温付近で相転移する水溶性乳化剤を用いた場合,安定にカプセルに薬物を封入することが困難であることがわかった。 【高温透過型ナノカプセル】UCST型の温度応答性を示すアンモニウムサルフェート型の双性イオンポリマー(PSaB)ブロックとPOEGMAブロックとからなるブロック共重合体を合成した。この際,ジチオベンゾエート型の連鎖移動剤を用いたRAFT重合が好ましいことがわかった。得られたブロック共重合体を用いて,W/Oエマルションを経由してその界面架橋反応によりナノカプセルを調製した。得られたナノカプセルは,UCSTを境にモデル薬物のカプセル膜透過速度が増加することが明らかになった。
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