研究課題/領域番号 |
21K05205
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
池田 進 東北大学, 材料科学高等研究所, 准教授 (20401234)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 有機半導体 / 分子動力学シミュレーション / 薄膜 / 核生成 / 結晶成長 |
研究実績の概要 |
研究期間の初年度である2021年度は、分子動力学(MD)シミュレーションを行うためのハードウェア、ソフトウェアを主とする研究基盤整備を行い、シミュレーションのための初期構造モデル(疎水性官能基で表面修飾したアモルファスシリカ基板、およびその基板上において核生成・成長する有機分子ペンタセンを複合化したモデル)を構築して、予察的なシミュレーションを実施した。本研究課題の最終目標は基板表面への分子の吸着、基板表面上での分子の拡散と会合、一部分子の脱離、会合した分子によるクラスターの形成、臨界核の生成、薄膜(結晶)成長の全過程を途切れなくシミュレーションすることであるが、研究期間中の最初のマイルストーンとして、基板表面に寝た状態で吸着していた分子が立つ瞬間を再現することを目指した(棒状有機半導体分子は孤立している状況において基板に寝て吸着するが、成長後の薄膜中では立っているという普遍的な現象がある)。全分子が寝た状態を初期構造としたシミュレーションにおいては分子が経つ瞬間を再現することができなかったが、立った分子からなるクラスターを一部共存させておくことによって、その周辺に存在する寝た分子が一斉に立ち上がる瞬間を再現することに成功した。また、基板温度を変化させ同様のシミュレーションを行ったところ、分子が立ち上がる挙動に温度依存性があることも確認できた。本研究で再現・理解を目指す多くの素過程の中の1つを見たに過ぎないとも言えるが、分子が立つ瞬間の再現はこれまでのシミュレーション技術では困難であったため、本研究を着実に進めていくにあたっての道標となることは間違いない。この道標的な成果を次年度以降の研究へとつなげていきたい。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、MDシミュレーション実施のためのシステム基盤(ハードウェア、ソフトウェア)に関して整備を完了し、予察的なシミュレーションにおいて、本研究課題の最初のマイルストーンとして考えていた「基板表面に寝て吸着していた分子が立ち上がる瞬間」をシミュレーション(動画)の中で再現・確認できたことは大きな進捗であると考えている。もちろんこれは、最終目標に向かうための最初のステップに過ぎないが、研究がおおむね順調に進展していることの判断材料とすることはできるであろう。
|
今後の研究の推進方策 |
重要マイルストーンの一つとして考えていた、基板表面に寝て吸着していた分子が立ち上がる瞬間をある条件の下で再現できたことは、今後、本研究を推進するための大きな一歩であると考えている。基板表面への分子の吸着、拡散と会合、一部分子の脱離、会合した分子によるクラスターの形成、臨界核の生成、薄膜(結晶)成長の全過程を途切れなくシミュレーションしていくことが本研究の最終的な目標であり、今回確認された現象はそれら一連の過程を構成する多くの素過程の中の一つに過ぎないのではあるが、分子がいつ、どのようにして立つのかは、本研究課題の核心をなす学術的「問い」でもあり、それに関して回答の候補が見つかったことによって、今後の研究指針は定めやすくなる。今回再現された、寝て吸着した分子が立つ現象には、立った分子からなるクラスターが近隣に存在することが条件であり、そのトリガの役割を果たす立った分子からなるクラスターの出現をシミュレーションで再現する必要がある。この「出現」は確率論的現象であると考えられ、本来であれば、マイクロメートルオーターの空間とマイクロ秒~ミリ秒程度のオーダーの時間スケールの中で追跡していくべきものである。現在使用しているMDシミュレーションシステムでは、この空間・時間スケールを扱うことは困難であり、物理的な意味を失うことなく計算を効率化できる技術的手段を検討するなどして、この困難を解決していく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
ワークステーションの購入金額が当初予定よりも減額したこと、また、新型コロナウイルス感染症の拡大状況を鑑み出張を差し控えたことが主な理由であるが、予算総額に比する割合は小さなものであり、次年度の研究活動にて有効に活用していく。
|